アンダーグラウンド掃討作戦(五百十六)
「大尉殿っ! 今のは何でありますかぁっ!」
臼蔵少尉は『何もしていない』のに、明らかに強力が武器がカッ飛んで行ったのだ。直ぐさま振り向いて聞くのは当然だ。
「スティンガーだ」「スチンガァ? 何かエロいっすねぇ」
井学大尉はショックを受けていた。声も小さい。
百発百中とまでは行かなくてもだ。言わば『目視で飛ぶスティンガーミサイル』を撃っておきながら、それを外すなんて。
「チンじゃねぇ。ティンだっ! ス『ティン』ガーミサイルッ!」
「俺にも『やらせて』下さいよぉ」「ダメに決まってんだろっ!」
玩具感覚でバンバン撃てる物じゃない。ゲームじゃないんだ!
それにしても『今の動き』は一体どういうことか。とても気になる。いやもう『気になる』なんてレベルの動きではない。
まるで『後ろにも目がある』ような。新型の対空防御装置か?
だとしたらもしかして、栄えある大日本帝国海軍航空隊も知らない『新兵器』が、搭載されているのかもしれない。まさか?
これはもう『上に報告が必要』な案件である。
「あっ、ビルが崩れるっ!」「落ち着けっ」
日本の航空技術は世界一。発動機、空力、制御のどれを取っても右に出るものは無い。これは『驕り』ではなく『真実』である。
まぁ、未だに世界では戦争が続いているので、技術の発達は『戦争と共にある』と言った方が紛れもない事実なのだが。
井学大尉はヒョイっと、いとも簡単に砂塵を乗り越えて見せる。
「あっぶねぇ。でも、凄い威力ですねぇ」
振り返った臼蔵少尉が、崩れ去った廃ビルを見送っている。
後ろを見たついでに、目で『俺にも』をアピールだ。
「フッ。全然危なくねぇよ。『ニンジャ』の実力を舐めんなよ?」
駄目だ。通じない。それもそうだ。残弾があと三発なのだから。
そうだ。この機体『OHー1』は、ヘリコプターには珍しく、『宙返り』も出来る機動性を有している。
さっきした『とんぼ返り』は、忍者で言う所の『忍法・壁蹴反転久留里破』であろうか。長い。
「相手のヘリは、何て奴なんですか?」
臼蔵少尉が前を指さす。井学大尉は『フッ』と笑う。
「あれは多分、『ブラックホーク』だな」
暗闇に黒い機体。尾翼に『ナンバリング』も無いが、井学大尉は『シルエット』だけでも『ブラックホーク』と判別可能だ。
パイロットは皆『そう言う訓練』をしている。
「凄い奴なんですか?」「んんー。凄いっちゃぁ凄いんだがぁ」
「じゃぁ、強敵なんですね?」「いやぁ」「違うんすか?」
陸軍でも知らない奴はいるだろう。ベストセラーであることも。
「あれは車で言う所の『バス』だからなぁ」「あぁ、輸送用かぁ」
納得してくれたようだ。しかし井学大尉は納得していない。
「あんまり見掛けないですよねぇ」「あぁ。アメリカのだからな」
「何でアメリカぁ? アメリカって『同盟』組んでましたっけぇ?」
「いや日本と同盟組んでいるメキシコから見たら『敵』だよなぁ?」
「意味判んないっすぅ」「いや、意味はある。判らないだけで……」
嫌な予感がしていた。しかしその前に再び砂塵が迫る。




