アンダーグラウンド掃討作戦(五百十四)
『ガラガラガラッ!』
喧嘩している間に廃ビルが崩れていく。
最後の一押しを食らって力尽きたのだろう。一瞬にして砂煙が立ち上がったが、その中をOHー1が突き抜けて来た。
「まだ追って来る」「どうするんだよっ!」
さっきから判っていることだが、同じように力尽きて倒れた『先輩達』が道路を塞いでいる。ヘリだから大通りを直進出来るのだ。
あとは戦車なら。それが無理ならキャタピラが付いた奴。
加えてこの辺は、水害が多かったのだろう。
上流から流れ着いた様々な物が、道路を塞ぐのに貢献している。
アンダーグラウンドが出来上がるのに一朝一夕では無理なので、一番海に近いこの辺りから工事が始まった。
つまりこの辺は『廃屋の宝庫』とも言える地域だ。
揺れるヘリから辺りを見回していた黒田は、前方を覗き込む。
「俺が撃ったら、左に寄せて高度十を維持しろっ!」
ちゃんと前を向いて言ったぞ。聞こえたんだろうな。
「真っ直ぐ飛んだら『狙い撃ち』にされるだろうがよっ!」
聞こえていたらしい。ヘリは相変わらずの『蛇行飛行』である。
「良いから言う通りにしろっ! 行くぞっ!」
何だよ。そう不満を漏らしたい黒井であるが、振り返ってみれば黒田は既に重機関銃を構えているではないか。『チッ』と舌打ちして、仕方なく『作戦』とやらに付き合うしかない。
『ババババッ!』「前を撃ってどうするんだよっ!」「うるせぇ!」
閃光が操縦をする黒井からも見えていた。黒田は後ろの敵ではなく、前の廃屋に弾丸を撃ち込んでいたからだ。弾が勿体ない。
『バリバリバリバリィィィッ!』「よっしゃぁっ! 左だっ!」
作戦の意図は図った。黒田が撃っていたのは、崩れやすそうな『木造住宅』だろうか。もう想い出の欠片も無さそうな感じがする奴。
あっという間に崩れ落ちて行き、砂煙が立ち上った。
つまり『あの陰に隠れろ』と言いたいのだろう。
「高度十だな?」「左に寄せてなっ!」「判ったよぉ」
操縦桿を左へ倒す。直ぐに右へ。大通りとはいえヘリには狭い。
僅かな操作で十分だ。常に真っ直ぐ飛ばそうにも、それが難しいのがヘリの操縦なのに、左側に寄せて高度もキープとは。
「ほらぁっ、寄せたぞっ!」「良いぞっ、そのまま真っすぐだっ!」
何かやるんだったら、いややるんだろう。黒井は早くして欲しい。
撃たれているのに『無傷』という訳ではない。今操縦出来ているのは、もしかしたら『風前の灯』なのかもしれないのだ。
もし『黄色ランプ』や『赤ランプ』が点灯したとしても、何か対処する自信はない。エンジン系、操縦系、電気系。全てに於いて。
「そのまま右に傾けろっ!」「贅沢言うなっ!」「早くしろっ!」
後ろを確認していた黒田が叫んでいる。黒井に『無理難題』を言っているが、それは『信頼の証』でもあろうか。
それとも今から行う『作戦の成功率』を、上げるためだろうか。
「これでどうだっ!」「あぁピッタリだ。ひっくり返んなよっ!」
『ババババババッ!』「じじぃっ! 何処撃ってんだっ!」




