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アンダーグラウンド掃討作戦(五百十二)

「この野郎。チョロチョロしやがってぇ。いやぁ、眩しぃ」

 臼蔵少尉が小さな声でボヤいている。目を擦ってからパチクリし、手汗を腰の辺りで拭いてからもう一度トリガーを握り締める。

 前を行く『多分敵機』はさっきまでとは異なり、蛇行をし始めていた。大通りの上を右へ左へ。


「タイミングを見計らってぇ」「良く狙え」「ん、んんっ」

 しかし上手く行かない。『狙いを付ける』のが、こんなにも難しかったとは。前を行くヘリの『ユラユラ』が、不規則なのが悪い。

 これはもう『ユラユーラ』とか、『ユーラユッラァ?』と表現する方が相応しい。見ていると気持ち悪くなって来る。

 狙う方にしてみれば『酔っ払い運転』と、言わざるを得ない。


「あいつ、相当ヤルなぁ。攻撃もそうだが、逃げ方もエグイ」

 思わず溢した井学大尉の言葉に、臼蔵少尉が振り返った。

「そうなんですか? 『本職』な感じ、します?」

 井学大尉は大きく頷く。ついでに横目で計器もチェック。


「あぁ、こんな所に空軍の経験者が居るとは。信じられんけどな」

「そんなこと言ってぇ。大尉殿もそうじゃありまえせんかぁ」

 右手でシュッと指さす。『撃ち方止め』とはまだ言っていない。

「まぁ、そうだけどな。良いから早く撃てっ」

 こちらも操縦中なのに、右手を振って前を示した。臼蔵少尉は『バレたか』と、目を丸くし肩を竦めてから前を向く。


「へいへい。『お知り合い』でも知りませんよぉ?」

「そんな奴は居ないっ!」「?!」

 思ったより強い調子で即座に否定される。臼蔵少尉は驚いて、肩をビクッとさせてしまった。チラっとでも後ろを向くのが怖い。

 一体『何を』気にしているのだろうか。アクセントが前? それとも後ろ? 臼蔵少尉はお尻がムズムズしてきてしまった。


 目の前の敵機を撃墜したら、井学大尉はとんぼ返りするだろう。

 勿論『宙返り』のことではない。さっきの工事現場から空に戻って、築地市場へ行くことだ。

 東北地方にある軍事拠点へ、軍事物資を届ける貨物列車が毎晩出発している。その出発時間には、まだ余裕で間に合う。

 石井少佐を探し出して、青森へ向けヘリでひとっ飛びする気だ。


「しかし、良く揺れますねぇ」「早くしろっ!」

 さっきまではそうだろう。無傷だったし。しかし『今も』なのだろうか。臼蔵少尉はチラっと後ろを見る。

 当たり前だが井学大尉は真剣そのものだ。敵も左右に揺れているが、こちらも左右に揺れ続けている。

 急かされてもいるし、やっぱりまだ『行く気』らしい。

 臼蔵少尉は覚悟を決めて前を向き、『フーッ』と大きく息を吐く。

 もう一度腰の辺りで手汗を拭いた。集中だ。集中しろ。


 いつもの臼蔵少尉なら『ズボンの方』で手汗を拭いていただろう。それなのに『腰の辺り』で手汗を拭ったのには理由がある。

 チビってしまっていた。本人曰く『ちょっと』だけ。

 大丈夫。椅子は『大穴』が開いている。どうせ修理に出されるから問題ない。うんそうだ。キャノピーだって交換が必要じゃないか。


 井学大尉は操縦桿を左右に振りながら、目は上下に動かしていた。

 前の『宿敵』と、計器の『赤ランプ』を確認するために。

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