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アンダーグラウンド掃討作戦(五百十)

 雨が降る。『天気雨』が。それはもう、強烈な勢いで。

 井学大尉は雨が嫌いだ。『当たると溶けるから』がその理由である。しかし、誰も彼も雨如きで死にたくはないだろう。激同。

 だが今日の雨は『天水』とはちょっと違う。上から降るのと『当たったら死ぬ』のは酷似しているのだが。あと、しっかり観察していれば、もしかしたら避けることができたのかもしれない。


『ババババッ! チンチンチンッ!』

 豪雨だ。雨音にしては似つかない音も混じっているが。

 強化ガラスのキャノピーで弾ける雨音に、臼蔵少尉は立ち上らんばかり。両手を体の右上方に伸ばし『万歳』をしている。

 つまり『右へ必死に逃げようとしている』のだが、シートベルトに固定されている体は、シートから僅かばかり傾いたのみ。


「うわあぁぁぁぁっ!」「ぬぅおぉおぉおぉおぉっ!」

 慌てふためく臼蔵少尉に比べ、井学大尉はまだ落ち着いている。

 様に、見えるだけか。右に倒していた操縦桿を、左へと一気に傾ける。それと同時に、キャノピーを走る雨跡が右へと流れて行く。


『パーンッ! パラパラパラッ』「ギャーッ!」「少尉ぃぃっ!」

 雨の一粒が強化ガラスを突き抜けた。一応『怪我防止』で角が丸くなったガラスの破片がコックピットに散る。臼蔵少尉が叫んだ。

 彼も散ってしまったのだろうか。最悪の事態が脳裏を過る。


「ぬぅおおおおおおおおっ! 曲がれぇぇっ!」

 井学大尉は叫ぶことしか出来なかった。臼蔵少尉にもヘリにも。

 顎を引いて上目遣い。ガラスの破片が目に入るのを避けながら、操縦を継続していたからだ。左には廃ビル。下には地面が。

 持ち得る全ての力を出し切る。腕も足も激しく動かして。


 ブラックホークから放たれた重機関銃の弾は、ほぼ真下を通過するOHー1に『雨』となって降り注いだ。すれ違う一瞬の間に。

 ある一滴はメインローターに弾かれて。別の一滴はキャノピーに弾かれて暗闇へと散って行く。何れも『致命傷』にはなっていない。

『煙の一筋』すらも出てはいなかった。完全にすれ違う。


「野郎っ! 真下に潜り込みやがったっ!」「外したのか!」

 黒田が撃つのを止めた。重機関銃が『旋回の限界』に達していたからだ。上から覗き込んで『敵の行方』を追う。


「手応えありだっ!」「やったのか?」

 少なくとも『命中』は確認している。この距離で外す訳がない。

 威力不足は否めないが、急ハンドルは事故の元である。戦車だろうが装甲車だろうがそれは同じだ。幾ら『弾を避けるため』とは言え、こんな狭い場所であんな操縦をしたら『ドカン』に違いない。

 今更必死になって『右に旋回』しようとしたって。


「俺なら出来るぅぅぅぅっ! うおりゃあぁぁぁっ!」

 井学大尉はスロットルを戻して操縦桿を引いていた。

 機首を上げて上昇だ。左側で古い看板を弾く。機体は右へ極端に傾きながら上へ。しかし目の前には『天井』が迫っていた。

 高さ三十一メートルの空間で『勢い良く一回転させる』だなんて、土台無理な芸当だったのだ。しかし諦めない。諦めるもんか。諦めたら直ぐに、死神が鎌を振り回しにやって来る。良く研いだ奴で。


「まっわれぇぇぇっ!」

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