アンダーグラウンド掃討作戦(五百八)
井学大尉はイラついていた。ブラックホークのパイロットに。
相当な『変わり者』に違いない。『アンダーグラウンドでヘリを飛ばそう!』なんて馬鹿な発想をするだけでなく、実際に飛ばしているのだから。『行けると思った根拠』について確認したい位だ。
廃ビルの陰からヘリを『横スライド』させて、横っ腹を獲る!
「ライトを見るなっ!」「えっ!」「見たら終わるぞっ!」
白い帯が見えて井学大尉は目を逸らす。勿論飛行経路も変更だ。
「目が『緑一色ドラ八』になっちまってぇ」
「馬鹿野郎っ! 何やってんだっ! 終ってんじゃねぇかっ!」
直撃だったら言葉通り『終わり』である。計算では揉めそうだが。
「冗談ですよぉ。見てないです。全然大丈夫ですってぇ」
「何だよ『ドラ八』まで付けやがって。ふざけてんのかぁ?」
さっきから『パイロット同士』は『熾烈な駆け引き』をしていると言うのに、『撃ち方』は暇を持て余しているご様子。
「でもぉ、相手が全然『照準』に入って来ないんですけどぉ」
それが一番の原因だ。まぁ、さっきは照準には入ったのだが、一瞬で通り過ぎてしまったのもよろしくなかった。
出来れば三秒程『静止する感じ』でお願いしたいのだが。
「ちょっと待ってろっ! クソッ! まただっ!」
反対側に『白い帯』が見えて、ヘリは急速反転だ。
もうこれで何度目だろうか。こちらの攻撃ヘリは『夜間攻撃』も実施可能なのだが、それを逆手に取っての『ライト攻撃』が来る。
「なんか『ビーム砲』みたいですねぇ。ビィィムッ」「うるせぇ!」
臼蔵少尉は場を盛り上げようと、『両手で振り被っていた所』なのだが、その両手がピタリと止まった。チラっと後ろを見る。
井学大尉は忙しいのだろう。それ以上は何も言って来ない。ヘリは反転すると再び加速し始めた。はいはい。平行飛行だ。
口をへの字にすると、そっと両手を降ろす。後は退屈そうに、機銃のトリガーへと指を添えるしかない。意外と『暇』である。
「大尉殿をしても、相手は『相当なやり手』なんですかぁ?」
直線飛行に入ったら、パイロットも暇になるだろう。
臼蔵少尉の『余計な気遣い』だ。臼蔵少尉自身は生粋の陸軍だが、井学大尉が『元海軍の戦闘機乗り』と言うのは聞いている。
相当な腕前だったらしいが、ヘマをして『ココ』に来たことも。
「いやらしい動きだ。いや『良い動き』と、言った方が良いのかな」
呆れるような声。時折右後方を見ながら前を注視する。
「廃ビルの使い方が上手い。前々から『庭』にでもしていたか?」
パイロットたるもの『凄い操縦』を見せつけられたら、『自分だって出来る』と思うもの。問題は『練習さえ』出来れば。
「ココをですか?」「あぁ。そうじゃないと理屈に合わねぇ」
井学大尉が『相手を褒める』だなんて。臼蔵少尉は意外に思う。
飛行に関して井学大尉は、『絶対の自信』を持っていたからだ。
数少ない『実戦経験を持つパイロットなのだ』とも聞いている。
「『次』で決めてやる。みぃてぇろぉよぉ?」
静かな声。臼蔵少尉は『ピン』と来てトリガーを握り直した。
「おっ、いよいよ『本気モード』ですかぁ?」「舌を噛むなぁ」




