アンダーグラウンド掃討作戦(五百六)
それにしても暗闇の中で、敵のヘリが良く見えるものだ。
こうなると『見る』と言うより『感じている』と言った方がしっくり来る。黒井の操縦は戦闘中にも関わらず、何故か安定している。
黒田は強い向かい風を受けながら、マシンガンを構えていた。その目の前を、幾つもの廃屋が過ぎ去って行く。
廃屋の合間に『機影』が見えてはいるのだが、それは時間にしてほんの一瞬だけ。とても狙いを定めて撃てる状況ではない。
「見失うなよっ!」「んな訳無いだろっ! 逃がすかっ!」
どちらかと言えば黒井の方が『追われる身』である。
法律的には、黒田も黒井も『内乱罪』が適用されるだろう。黒田は当然『首謀者』であり『死刑』は確実。今や黒井も同類だ。
「ぶち込んでやるからな」「あぁ。次は外すなよ」
なのに『そんなこと』は、微塵も感じられない。余りにも『間延び』している状況に、二人は顔を見合わせて笑う。
すっかり『狩る側』の気分のようだ。
確かに戦場では『逮捕する』なんて気にはならないだろう。
あるのは『殺る』か『殺られる』かだけ。
「敵も大分困っているようだな。動きが怪しい」
OHー1は『戦闘ヘリ』なので、武装が正面に付いている。
だから平行に飛んでいては攻撃が出来ない。攻撃する為に、こちらに頭を向けたいのだ。タイミングを見計らい、先程から速度を落とすと『その場での旋回』を試みている。
「フッ。さっきから『こっち』に、頭を向けさせてないからな」
黒田は笑う。黒井は『ドヤ顔』でもしているのだろう。それ位、見えなくとも判る。前々から『食えない奴』だとは思っていたが、『空戦』になると、これ程までに『嫌な奴』だったとは。
「悪い奴だなぁ」「じじぃに言われたかぁねぇよ」
黒田がそう思うのも無理はない。今や『黒井の翼』となったブラックホークは、立派な『輸送ヘリ』である。大した武装は無い。
だから今ある武装は、ヘリの横から構えているマシンガンのみ。
最後のロケット弾は『オウンゴール』に貢献してしまい、残弾はゼロである。
「くそっ、また旋回したと思ったら、逃げやがった」
OHー1が旋回し始めたタイミングで、ブラックホークも何故か旋回を始める。するとOHー1の様子がおかしい。
正面を向きそうになった所で、平行飛行へと戻ってしまうのだ。
マシンガンを構えたままの黒田にしてみれば、敵が段々と見えなくなって行くのに等しい。悔しがるのも無理は無い。
「向こうにしれみれば、『凄く判りやすい』からな」
平行飛行に戻ったらブラックホーク側が有利だ。ピッタリ横付けしてマシンガンの弾をありったけぶち込んでやる。
しかしOHー1の方が飛行速度が速く、追い付けないのが実情。
「何がだぁ?」
黒田にしてみれば『判る』とか『判らない』の問題ではない。出番が『ある』か『ない』かが問題なのだ。相当深刻な奇問。
しかし黒井にしてみれば、むしろ逆に面白かったみたいだ。振り返った笑顔がそれを物語っている。
『お・し・え・なぁい(ハート)』




