アンダーグラウンド掃討作戦(五百五)
いつでも『黒田の言いなり』だった黒井が、黒田に命令している。
黒田は素直に従った。操縦席にもたれ掛るのを止め、マシンガンの所へ急ぐ。直ぐに暗闇に向かって構えた。そして大声で問う。
「何があった!」
ヘリに損傷はない。音もしなかった。二人で『同じ方向』を見ていたのに、『自分だけが見逃した』のも釈然としない。
「機銃で撃たれたんだっ!」「本当か?」
思わず聞き返す。依然暗闇に『照準』を合わせたままで。混乱だ。
機銃だとぉ? 間違いないぃ? こんな所に『何』が居るぅ?
「あぁ。間違いない」「間違いないって、お前、判んのかよ!」
「判るさ。『弾が空気を切り裂く音』って奴に、俺は敏感なんでね」
意味判らん。『機銃』ってことは、重機関銃? 歩兵じゃない。
「何が来るっ! ジープか?」「ヘリだっ!」
銃口を『下』に向け掛けたが止める。『ヘリ』ってお前……。
『ダダダダッ! ダダダダッ!』「うおぉおぉおぉおぉっ!」
本当にヘリの姿が。廃ビルの陰からヒュッと飛び出して来たのだ。
黒田は躊躇なく引き金を引く。味方な訳がない。
「こんな所に、ヘリなんかで来る奴が居るのかよっ! うわっ!」
並べられたのは『御託』だ。残念ながら『戦果』ではない。
と言うことは、『黒田は外した』と理解すべき。実際敵は、こちらの姿を見た瞬間、危険を顧みず上昇していた。黒井も動き出す。
「居たじゃねぇかよっ!」「まぁ、確かになっ!」
敵前に回り込もうとしているのか。ヘリの床面が傾いている。
飛び散った薬莢が転がって下界へ落ち行く。黒田は思う。『アンダーグラウンドでヘリを飛ばす』だなんて、流石に無茶だと。
幾らレーダーを避けるために『低空飛行』を強いられるにしても。
だから『当初の作戦』は、隅田川貨物駅でヘリを強奪し、隅田川跡沿いに飛んで荒川に到達するまでだ。そこで外へ。
オプションで『遊覧飛行を付ける』位なら、許可しようとは思っていた所だ。パイロットなら『空を駆け回りたい』だろうと。
「野郎、ナイトビジョンなんか付けて、『酔わない』のかよっ」
敵機は何処か。黒井は暗闇の中を裸眼で探している。
「やっぱ酔うのか?」「キッツい」「だろうなぁ」
車を運転するのだってキツイのだから、上下にも揺れ動くヘリならもっとだろう。しかし『戦闘機乗り』をもってしても、キツイと言わしめているのに、敵はそれを平然と行っているようだ。
「敵は『デキル』のか?」「相当」「……」
準備が良過ぎる。タイミングもだ。黒田は首を捻っていた。
何処で『作戦』が漏れたのだろうか。途中で『アドリブ』を入れたのにも関わらず、このタイミングで『敵』が現れるとは。
「マジかっ! 『ニンジャ』じゃねぇかっ!」「OHー1だとぉ?」
どちらかと言えば黒田の方が『じっくり』見たはずなのに、シルエットを見ただけで判った黒井の方が、やはり『本職』だ。
「おいおいおいおいおいっ! フル装備だったら冗談じゃねぇぞ!」
「『偵察タイプ』って奴じゃねぇのか?」
返事がない。横方向への水平移動が答えならば、それは『否』だ。




