アンダーグラウンド掃討作戦(五百二)
黒井が『合掌』しているとき、黒田はまだ生きていた。
ヘリから垂れ下がっているロープを、しっかりと握り締めていたのだ。むしろアルバトロスが落下してから『楽になった』と言える。
「うわぁっ! ちょっ! とっとっとっ! フラフラすんなっ!」
パイロットに文句を言う暇を、何とか捻出して叫ぶ。
返事が無いので上を向いていると、次の壁が迫って来る。激突しないよう、器用に『横走り』をしたりなんかして。
「奴を捨てて、正解だったかもしれんなぁ。あらよっとぉ!」
何度も繰り返す内に、実は楽しくなって来ていたのも事実。
アルバトロスを不法投棄した事実は、『ホップ』・『ステップ』・『ジャンプ』を三回繰り返した所で記憶から消し飛んでいた。
ところがだ。商店街を抜けて『広場』に出た瞬間である。
「うわっ! おぉおぉおぉっ?」
突然ヘリがぐらついた。真っ直ぐ飛びながら大きく左へ傾く。
直ぐにピンと来た。『黒井め、何か『ヘマ』をやりやがったな』と、思う間も無く、危機が目の前に迫っていたのだ。黒田は焦る。
今は『ヘリの左側』から、ロープで降下している状態だ。
そんな状態でヘリが左側に倒れても、ロープは相変わらず真下に降りている。すると近付いてくるのは『メインローター』である。
さっきからピョンピョン飛び跳ねながらも、黒田はロープをよじ登り『あと少し』という所まで来ていた。
「アヴァヴァアヴァッ! 涼しい涼しい涼しいっ!」
機体がひっくり返ろうものなら、黒田はたちまち『ミンチ』になってしまうだろう。百グラム幾らになるかは知らぬ。
しかし今はまだ、『風呂上りの扇風機』を思い出す程度に留まっている。打ち下ろす風が心地良い?
「なっ! 今度は逆っ! うおぉおぉおぉっ!」
と今度は逆方向へ一気に傾く。振動もかなりのものだ。
予想だにしない動きに、黒田はロープからずり落ちていた。
「イテテテテテテッ! ぬぅぅっ!」
グッと力を込め、何とか落下は免れたものの、ゴールは遠ざかる。
しかもヘリの下を潜り、反対側へと勢い良く飛び出していたのだ。
「アヴァヴァアヴァッ! 涼しい涼しい涼しいっ! じゃねぇっ!」
再び『風呂上がりの扇風機』とご対面だ。もう勘弁してくれっ!
しかしこうなると、近くなった『機体の右側』に手が届きそうではないか。片手を離し、グッと手を伸ばす。が、残念。届かない。
「ぬぉぉぉぉっ! くっ! もうちょいっ!」
足を『平泳ぎ』のように動かしてみても『あとちょっと』が。
「おわぁぁぁぁぁっ! 落ちるうぅぅっ!」
あんまり左右に揺れたので、遂に『失速』してしまったのだろう。
黒田にも『落ちる感覚』が伝わって来ていた。届きそうだった右側が徐々に離れて行き、再び機体の底が。更に左へと振られる。
きっと黒井も『しまった』と思っているのだろう。エンジンの出力を上げた感あり。その頃黒田は、完全に左側へと戻って来ていた。
フワッと浮いて『体が水平』になった瞬間、『ピンッ』と張ったロープを思いっきり引っ張る。黒田渾身の力を込めて。
『ゴロンゴロンゴロンッ! ガンッ!』「痛ってぇぇっ!」




