アンダーグラウンド掃討作戦(五百一)
レッド・ゼロ本部に襲い掛かる陸軍を蹴散らした後、ヘリは逃げるように飛び去っていた。誰も追っては来ない。
冗談じゃない。追ってなんて来るものか。チラっと後ろを見た所で、何が見える訳でもない。前を向いてホッと一息。
前を向き、快調なエンジン音だけを聞きながら、落ち着きを取り戻す。ただ一人の乗員になって思うことは、たった一つである。
『こんな所に長居したくはない』
パイロットとして、これは嘘偽りのない『正直な気持ち』だ。
まだ飛び始めて『数分』だろうが、こんな『お化け』でも出そうな所は御免蒙る。大空の夜間飛行だって大変なのに、『壁だらけ』『柱だらけ』の所を飛ばさせやがって。
本部に立ち寄ったのは『只の偶然』である。
秋葉原駅を脱出して、飛び易い場所を真っ直ぐに飛んでいたら、急に『次の信号を左』とか叫ぶ奴が。勿論、黒田だ。
『通り過ぎてから言うな。タクシーだって曲がれないだろう』
そう言った所で『タクシーだったらな』と言い返されるのが関の山であった。思い出しても『素敵な笑顔』だったよ。
仕方なく、道なき道を切り開き、谷間を思わせるような『細い路地』をかっ飛ばして行った結果が『コレ』である。
「まったく。『ヒャッホゥ!』じゃねぇよ……」
思い出したのは『黒田の顔』である。操縦席の横から顔を覗かせていやがった。ホント邪魔だったぜ。
思えば短い付き合いだったが、この世界に飛ばされて来てから、一応は世話になった。いや、それは本当だろうか?
しっかりと思い出せ。出会ってから今日までのことを。
ほら、『陸な目に合わなかった』比率と、『助かった』の比率を比較すれば、おおよそ『九対一』ではなかろうか。
これでは助かった比率が『随分と低い』と、思わなくもない。
しかしそれが、『命の危機』であったなら、話は別だ。
仮に、『黒田の奴が、まんまと生き延びるため』であったとしても、助けてくれたのは列記とした事実である。
ただ、生き残ったからこそ、次の『陸でもない作戦』に駆り出されてしまったのも事実。そしてまた、命を助けられ……。
「いやいや、そんなことはない」
黒井は急ぎ首を横に振る。苦笑いだった。
黒田との『楽しい永久ループ』に陥っていたのではないか、との疑いを払拭したのだ。
するとどうだろう。途端に『悲しみ』が胸中に迫り来る。
ここは素直に、黒田の冥福を祈って合掌するしか。
「うわっ! 触っちまったっ!」
ヘリが姿勢を崩す。両手で祈りを捧げた瞬間に、操縦桿を不用意に触ってしまったらしい。
「クソじじぃ! 祈ってやったのに、何してくれてんのっ!」
完全な八つ当たりである。左に傾いてしまった機体を立て直すため、操縦桿を必死に操作していた。しかし不慣れな『緊急操作』が祟ったのか、機体が左右に大きく揺れる。
あれ? これほぼ『真横じゃね?』と、思えてしまう程に。




