アンダーグラウンド掃討作戦(五百)
「外したっ!」「遅いんだよっ!」
言った瞬間から動き始めていた。もう敵機の姿は見えない。
予想通り姿が見えたのは一瞬で、あっと言う間に通り過ぎてしまったからだ。残像を攻撃しても弾の無駄でしかない。
「すいません。思ったより速くて……」「良いから前を見てろっ!」
わざわざ振り返って謝る臼蔵少尉に一喝。直ぐに戻った。
ヘッドセットで会話ができるのに。井学大尉は前の椅子を蹴り飛ばしてやろうかと思うが、それは幾ら何でも無理。
消えたヘリの後を追って右へバンク。コーナーへ迫る。
幸運にも『横っ腹の機銃』は向こう側。不幸中の幸いだ。
通り過ぎた後の暗闇に、意味なくぶっ放した弾道が仮に『見えていた』として。それだけで『こちらの状況把握』は難しいはず。
判ったとしても、先ずは『自機の状態』を確認しているだろう。
パイロットは『今の攻撃』に気が付いただろうか。
余程耳が良い奴ではない限り、廃ビルに当たった程度で『どんな攻撃』を『何処から』受けたのかは判るまい。
ここは『気が付いていない方』に掛ける。
しかも好都合なことに、相手はライトを点灯させていた。
この暗闇で『レーダー』が使えるだけでも有難いのに、おまけに『ライト』まであったならば、それは余りにも『イージー』過ぎる。
このタイミングで目の前に迫る廃ビルをギリギリで通過したならば、後ろから攻撃可能な状態になるはず。
「何時でも撃てる用意をしておけっ!」「はいっ!」
流石の臼蔵少尉にも『井学大尉の作戦』は理解出来たらしい。
敵が道路に沿って、真っ直ぐに進んでいるのは明らかだ。今はその直ぐ後ろを追っている。今まで良い所が全く無い。取り返さねば。
スティックを強く握り直した後に『フーッ』と息を吐き、肩の力を抜く。ヘリの動きに合わせて照準を移動させながらも、機銃のトリガーに軽く指を添える。ライトが見えたら撃つ。集中だ。
廃ビルにぶつかるのかと思う程に近付いた、次の瞬間!
「撃つなっ!」「おりゃぁぁぁ」『ババババッ』「えっ」
井学大尉は操縦桿を右から左に素早く倒した。一瞬の判断。
しかし、飛べる空間が限られているアンダーグラウンドに於いて、そんな操縦が『ご法度』であることは百も承知だ。
それでも『機銃がこちらを向いている』となれば話は別。
『ババババババババッ』『チンチンチンッ』「うわあぁあぁあっ!」
臼蔵少尉は両手両足を左上に上げて驚いている。ちびったか?
正面から暗闇に光る弾道が見えていた。いや、見えたのは『銃口』であって弾は見えていない。見えるはずもない。
勿論見たくも無ければ、『体で感じる』何てのは真っ平御免だ。
しかしどうやら『機体の右側』を、何発かがかすめて行ったようだ。なぁに。問題ない。横目に見えた計器はオールグリーン。
井学大尉はそんなことよりも、『機体の行く末の方』を心配していた。当然だ。上には天井、下には廃屋。
これで怪我人が一人も出なかったら『奇跡』と言って良い。
「ぬおぉぉぉぉっ!」「大尉っ! ぶつかるぅぅっ!」




