アンダーグラウンド掃討作戦(四百九十八)
「イヤッホォォッ! ジェットコースターみたいですねっ!」
臼蔵少尉の声は興奮気味だ。とびきりの笑顔で振り向いた。
暗闇の中をヘリで飛ぶなんて、それはもう『アトラクション』にしてはスリル満点に違いない。
「シートベルトは?」「まだですけどぉ、どこですか?」
「早くしろっ! 死にたいのか!」「はい!」
まだ質問はあったのに、井学大尉から叱責されてしまった。
「おいおい。何だぁ? 死にたいのかぁ?」「いいえっ!」
直ぐに前を向いてシートベルトを探す。お尻の辺りでグチャグチャになっているのがそうだろう。引っ張り出してカチャン。
「直ぐに『試射』。時間無いぞっ」「はいっ!」
シートベルトの次は試写とな? 映画? 違う違う。『試射』だ。
「一発だけなっ。トリガーをチョンと軽く一回弾け」
目の間にある操縦桿、人差し指の所に『赤いスイッチ』がある。コイツに違いない。しかし照準が判らない。
「真暗ですけど、狙いはどうやって付けるのですか?」
振り向いた臼蔵少尉の間抜け面を見て、再び叱責が飛ぶ。
「ナイトビジョンを着けろっ! コレだコレッ!」
人差し指で示す。そうか。聞きたかったのは『それ』だよ。
納得してナイトビジョンを装着する臼蔵少尉を、井学大尉は後ろから溜息交じりに眺めている。
レーダーには確かに『ヘリ』が映っていた。
実に舐めた奴だ。戦場で『トランスポンダーをオン』にしているとは。しかも『計器飛行』だと? 意味判らん。
何処のレーダーを頼りにしているのか。是非聞いてみたいものだ。
「大分近いぞ。試射まだか? 早くしろ」
そんなアフォみたいなレーダーの表示だが、間違いでは無ければそろそろ見えてくる頃だ。幾ら何でも正面衝突は避けたい。
「中央の『バツ』を狙えば良いのですか?」「左旋回!」
親切心で一応宣言してからグッと操縦桿を倒す。そのときだ。
「うわぁぁっ!」『ババババババッ』「おおおおお! すげぇっ!」
叫び声と一緒に、グッと強く握り締めてしまったようだ。
すると一発の約束だったはずの機銃が、光の帯となって大量に発射されてしまったではないか。喜びの声は、勿論臼蔵少尉である。
「馬鹿野郎っ! すげぇじゃねぇっ!」「すいませんっ!」
お怒りはごもっともである。今更肩を竦めても駄目だ。
「一発だって言ったじゃねぇかっ!」「はい。申し訳ございません」
結局、何発撃ち込んだのか判らない。あぁ、もうっ!
「弾が無くなったら、お前を放り出すからなっ!」「はいっ!」
「おぉ? 良いんだな?」「いいえっ!」「たくぅ」
調子の良い奴め。叱り付けた井学大尉にしても『若かりし頃の失敗談』はある。つい思い出してしまい、苦笑いで誤魔化す。
『グワッシャーン! バラバラバラッ』「大尉! 見て下さいっ!」
何かと思えば、視界の端に廃屋が崩れ落ちる様子が映った。
「凄い威力ですねぇ。敵さんにぶち込んでやりましょうよっ!」
「あぁ。その調子で頼んだぞ」「任せて下さいっ!」
気合を入れて握り直しているが、余り力を入れるんじゃないぞ!




