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アンダーグラウンド掃討作戦(四百九十七)

 事態は深刻なようだ。石井少佐は思考を巡らせていた。

 しかし井学大尉の顔を見れば、『次に何をしたいのか』は判る。


「ここを飛べるのかね? かなり危険だが」「やれます!」

 やはり。井学大尉はアンダーグラウンドへ突っ込むつもりだ。

 それでも緊張感はヒシヒシと伝わって来る。何しろ操縦桿を握る右腕を怪我して、包帯が取れたばかりなのだから。

 ドクターヘリの操縦だってそう。別に車でも良かったのに。


 しかし破壊された研究所の復旧作業をしている今、出入りは厳重に制限されている。ゲートで色々質問されるだろう。

 連れ込まれた先が『病院』ではなく『研究所』であったならば、マネキンに『無用な心配をされる恐れ』もあった。

 その辺は確かに『ドクターヘリ』なら心配は全く不要。

 検問も無く、ヘリポートから『検査場』まで運搬が大変スムーズに進んだ。この功績は『ナイスアシスト』と言えるだろう。


「しかしぃ……」「どうしたのかね? らしくないじゃないか」

 井学大尉の弱気な発言か。石井少佐はポンと肩を叩く。

「いてっ」「あぁすまん。大丈夫かね?」

 どうやら『痛点』を刺激してしまったらしい。急いで取り繕う。

「大丈夫です」「本当かね。ちょっと診せてみなさい」

 笑っているし、血も滲んで来ない。それでも軍医として、放って置ける訳もなし。スッと腕を伸ばす。

 しかしそれを丁重に断って、目をパチクリし始めた。


「あぁ、少佐、本当に大丈夫です」「リハビリ中なのでは?」

「リハビリは、さっきの飛行でもう十分です」「そうかねぇ?」

 お互いに笑顔で理由を付け合う。腕だけが空回りしていた。

 だとしたら、何が心配だと言うのだろう。まだ渋い顔で。

 ちなみに、石井少佐の『突入許可』がなかなか下りないのは、井学大尉自身の表情であることに、本人は気が付いていないようだ。


「流石に少佐をお乗せして、行く訳には……」

 成程。大和ホテルへの送迎をしたかったという訳か。なら心配ない。石井少佐はチラっと時計を見ると、ニヤッと笑う。


「大丈夫だ。私はまた『軍用列車』に乗って行くとするよ」

 築地市場の方を指さした。井学大尉はもう一度頭を下げる。

「申し訳ございません。じゃぁ少尉、『攻撃手』として行くか?」

 切り替えは速かった。臼蔵少尉へ声を掛ける。

 すると、まだヘッドホンに手を添えて『無線を聞いている』であろう臼蔵少尉が、パッとヘッドホンを外したではないか。


「はいっ! 喜んでお供致します!」「じゃぁ乗りたまえ」

 何だ。ちゃっかり聞こえていたのか。反応が速い。しかし直ぐに固まる。若干不思議そうに『前の席』を指さした。首も捻る。

「前席でありますか?」「あぁ。攻撃手は前だ。何も触るなよ」

 空席はそこしかない。井学大尉はもう離陸準備を始めていた。


「特等席じゃないですかっ!」「早くしろっ、置いて行くぞっ!」

 返事は無い。慌てて乗り込む姿を笑いながら、石井少佐は『見送り役』としてヘリから離れる。直ぐにローターが回り始めた。


『ヒュン・ヒュン・ヒュン、ヒュンヒュンヒュンヒュンッ!』

 互いに敬礼を交わす。ヘリは低高度のまま旋回し闇へと消えた。

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