アンダーグラウンド掃討作戦(四百九十五)
『バリバリバリバリッ』「ゲホッゲホッ」
ポッカリと開いた穴の底へ向けて、一機のヘリが降りて来た。
早く出迎えようとしていたのだろう。一歩先んじて前へ出た一人の男が、右前腕で顔を押さえながらもその場に踏みとどまっている。
「近過ぎだよ。下がりたまえっ!」
勢い良く回転するローターの風圧で、埃だけならまだしも、小さなゴミまでが飛び散っている。爆音の中でも指示が聞こえたのだろう。振り向いて頷いた。呼び掛けた男の方へ走る途中でよそ見。
『カランコロン』「誰だっ!」
顔を覆っていた右手を素早く降ろし、次の瞬間には拳銃を構える。
埃なんて構わない。そんな気概すら感じられる凛々しい姿勢。
拳銃を取り出しやすいようにと、前ボタンを外していた白衣が風に舞っている。『カチン』と安全装置を外す音が。
『カララァァン。カッコォォォンッ』
しかし『明らかに空き缶』と判って『何だぁ』と思ったようだ。
それでも『折角出したのだから』と言いたげ。いや、空き缶に拳銃を向けてしまったことを後悔し、誤魔化しているのだろう。
拳銃を構えながら誰も居ない暗闇に向かっての警戒を怠らない。
やっぱり埃が耐えがたいのだろう。左手で右肩を掴み、左腕の上腕で顔を覆いつつ、左肘を拳銃を握る右手に添えている。
走りながら目だけは『ギロリ』と睨んでいた。
結局、声を掛けた男の隣へ来た所で警戒は無事解除だ。
「こんな所に『空き缶』だなんて、一体『誰』なんでしょうねぇ」
フンと鼻息。『誰か来た』とカン違いしてしまったではないか。冗談交じりに言いながら、抜いた拳銃を隣の男へチラっと見せる。
白衣をきちんと着たままの男は、興味を示さない。見せた男は肩を竦めると、白衣を邪魔そうにたくし上げ、拳銃をホルスターへ。
「是非、『お会いしたい』ものだなぁ」
興味はそちらか。それにしても、感情の籠った実に丁寧な言い方である。優しい笑顔で『まだ見ぬ誰か』に向かって話し掛けるような。これは本心で間違いない。しかし苦笑いになって聞き返す。
「少佐殿、まだ『丸太』の仕入れは、足りませんか?」
今日だけで十本は仕入れたはず。すると聞かれた男は、途端に目を吊り上げる。どうやら『逆鱗』に触れてしまったような。
「失礼だよ君。丸太ではなく、ちゃんと『マネキン』と言いなさい」
そっち? 叱責された男は『この部隊』に配属されてから、まだ日が浅かったのだ。『マネキン狩り』も、今日でまだ三回目だ。
「失礼致しました」「少尉、気を付けたまえよぉ?」「はっ」
声の調子からして、石井少佐の機嫌はもう直ったようだ。
顔を上げた臼蔵少尉も笑っている。しかし目の前に降りて来たヘリを見た途端、それが『驚きの表情』へと変わった。
「大尉殿は、どうしてヘリを乗り換えて来たのですか?」
さっきまでの『救急ヘリ』は何処へ? 燃料切れか? 代りに登場したにしては、こいつはバリバリの『軍用ヘリ』ですが?
「どうやら私を、大和まで送ってくれるようだね」




