アンダーグラウンド掃討作戦(四百九十三)
「うおおっ、開かねぇっ」『ドタドタ』「うおおぉっ、開かねぇっ」
何度目だろうか。フロアに二つあるドアノブを、走り回りながら何度も揺すっているが手前にも奥にも開かないようだ。
「うおおっ! おちきしょぉっ! どうにでもなれっ!」
何処を探しても出口がないと判ったアルバトロスは、唯一の出口を目掛けて走り始めた。そう。崩れた壁の所だ。
自動警備一五型が並んで、こちらを眺めている。
しかし今更構うものか。こんないつ崩れるか判らない廃ビルに、ジッとしていることなんて出来る訳がない。
「アイ・キャン・フライッ!」『バッ!』
フロアから飛び出したアルバトロスは、両手をさっと横に広げる。
『ドォォォンッ!』『ボッカァァァァァン!』
その瞬間、左手から火花が。右下からも大きな火柱が上がった。
アルバトロスは真顔だ。顔色はおろか、眉一つ動かしもしない。
いつもなら確実に驚くであろう轟音が響き渡っているのに、むしろそれを『盛り上げ』と歓迎しているかのよう。感極まれり。
実際右下からの火柱の勢いで、アルバトロスの髪が下から吹き上げられる。おかっぱ頭の髪が一瞬の内に逆毛となり、速度感が増す。
ハート地のパンツが一瞬揺れた後、勢いで下がり気味となるが、それは右ひざを大きく掲げた姿勢により喪失は辛うじて免れた。
直後、右足が前へ。ピンと一直線に伸びる。同刻、人生に於いて最大出力を発揮した左足も膝が伸びて、空中を歩くかのよう。
いや違う。重力に逆らって今飛び立つのだ。明日へ向かって。
『バキバキバキッ』『ドォォォンッ!』『ガラガラガッシャーン』
すると今度は、後方の壁が次々と崩れ落ちて行く。
恐れも何もないのか振り返りもせず、ただひたすらに前を向くその後ろでは、三方に残っていた壁が倒れ、互いにぶつかり合う。
巨大な塊から細かく打ち砕かれ、剥がれ落ちた外壁や積年の埃が一斉に舞い上がっていた。相当大きな音であるが、まるでそれも見越していたかのように冷静沈着である。静かにまばたきを一回。
決意のタイミングとしては、正に最後の瞬間であったのだ。
誰にも判るまい。一を見て十を知る能力の一端を垣間見た。
そう。アルバトロスの判断は常に正しい。彼は鳥になったのだ。
崩れ落ちた壁により、巻き上げられた砂煙がアルバトロスを追う。
しかしそれは、踏み切った場所から単に流れ落ちていた。軽い砂塵は巻き上がり背中に迫るが、下からの爆風によって上空へと吹き上げられるのみ。かすりもしない。まるで『この状況』すらも、『演出の一部』として計算されていたかのようだ。流石の一言。
無残に壊れた自動警備一五型の赤いライトが、瓦礫と砂塵に覆われて行く。やがて機能停止へ。
内部では戦闘コンピューターが、『センサーの異常』を多数検知していた。先ずは『ERROR』の文字が。止まらない。まだだ。
続いていると、今度はその上に『警告』の二文字が次々と上書きされて行く。もうログは『状態異常』で埋まり切ってしまった。
『自爆プロトコル発動。総員退避せよ』総員退避せよ』退避せよ』
『ドォォォンッ!』『ドォォォンッ!』『ドォォォンッ!』




