アンダーグラウンド掃討作戦(四百九十二)
『タンッ! パーンッ!』「ギャァァァ……。あ、あれぇ?」
撃たれた! でも当たってない。この距離で『外す』なんて?
『タンッ! ボォォン!』「うわっ! あぶねぇっ!」
今度は判りやすく『暴発』した。お陰でアルバトロスは、目の前で『何が起きたのか』を理解する。
自動警備一五型には、『武装が壊れているか』を確認する機能がない。何故なら腕に装備する武器は、人間が使用する物と同じ武器を持たせているからだ。
流石に狙いを付けるために、銃を顔の前に持って来るようなことはしない。腕の長さと、計測をするセンサーが取り付けられている顔の位置については、内臓するコンピューターで誤差を補正済。
だから『百発百中』の正確さで撃ち抜くことが出来る、はずなのだが、そうは行かない。
銃の特性を把握して、補正を終えるまでの数発は外してしまうこともあるだろうし、今回のように銃口の前に『何か』があっても、目測で狙った場所を撃つのに躊躇はしないからだ。
「何だ。全然怖くねぇわ。このポンコツ野郎がっ!」
酷い言い草である。自分で開発して組み込んだ機能もあるだろうに。それを棚に上げてそこまで言う? まぁ、奴なら言うか。
加えて瓦礫の山から『手頃なサイズ』の破片を持ち上げると、自動警備一五型に向かって投げ始めたではないか。
『高田部長、やっぱり『こんな顔』にしましょうよぉ』
『小娘ぇ? そんな漫画みたいな顔にしてどうするんだ。却下却下』
『漫画じゃないですよ。エロゲーですよぉ。知らないんですかぁ?』
『見切り発車の朱美だろぉ?』『何だ? 隠れスケベおやじかぁ?』
『馬鹿かお前は。AV事業部の売り上げに貢献してどうすんだYO』
『良くないっすその言い方。俺が社販で『何』を買おうと自由っす』
『良かねぇだろってちょ、まさかボーナスの『現物支給分』って?』
『そんなの当・然・全部『エロゲー』に突っ込んでますが。何か?』
『ちょっと、なぁにやってんだよぉ。『家の製品』を買えよぉっ!』
『それこそ要らないっすよぉ。三割引きでも七千万じゃねぇですか』
『良いじゃねぇか。買えよ。ほら、奴は三十年ローンで買ったぞ?』
『主任と一緒にしないで下さいよっ! 俺は嫁がいないんですよ?』
憎しみを込めて瓦礫を投げ続けていた。もう動く奴は居ない。
手を休めたのは『疲れた』というのもあるが、『何かムカついた』というのもある。どうして間抜けな琴坂主任には嫁がいて、カッコイイ俺には居ないのか。
どうして『自動警備一五型』なんて名前が通るのに、『見切り発車』の朱美ちゃんはダメなのか。自社製品だぞ?
「フッ。まぁ良い。何れ『俺の時代』が来る。それまでは預けとく」
誰に何をいつまでに預けたのか。預かり料は幾らなのか。全てを秘密のヴェールに包んだまま、アルバトロスは悠然と歩き出す。
しかしそれは、断頭台と同じくたったの『十三歩』で終わった。
「降り口がねぇじゃないか。どこから逃げるんだ?」
『ドーンッ!』「うわぁぁっ!」『パパパッ!』『ターンッ!』
再び戦闘が始まっていた。砂煙が納まったからだ。
格好を付けて歩き回っている暇があったら、どこからでも飛び降りるなりして、兎に角逃げておけば良かったのに。
アルバトロスは瓦礫の中を、今更ながら走り出した。




