アンダーグラウンド掃討作戦(四百九十一)
壁の向こうで、何か大きな爆発があったことは明らか。
しかしまだ生きている。アルバトロスは恐る恐る上を見上げた。
詳しく覚えている訳ではないが、見れば判る。あそこに『人型に壊れた窓』が見えているが、それは一つ上の階。
自分は今、床が抜けてより高くなった壁を見上げている。
「おいおいおいおいおいぃぃぃぃっ! あっちへ行けぇぇぇっ!」
揺れ始めた。目の前の壁がフラフラと。波打つようにゆっくり。
爆発音と同時に、上から沢山の破片が飛んで来た。それでも見える景色に大きな変化は無く、『助かった』と思う。
それが『ポロッポロッ』と破片が落ち始め、それに連れて『ミシミシッ』なんて音も聞こえて来る。だから言ったのだ。
木造で三階建てにするなら、金属製の梁と筋交いを入れておけと。
『ガラガラガッシャーン』「おわぁぁぁぁぁっ!」
崩れた壁によって立ち上る砂埃。アルバトロスは咄嗟に頭と、大事な顔を覆う。それよりも『早く逃げれば良いのに』と思うのは人情であろうが、そうは言っても、人情も出口も無いのが実情。
『ポロッポロッ』「ゲホッゲホッ、あっぶねぇぇ」
残念ながら『運』だけはあったようだ。怪我一つない。埃まみれではあるが、咳払い、つまり『息をしている』のがその証拠だ。
地球はアルバトロスのような人間にも寛大である。例え彼のような自己中心的な考えを持ち、他人がどうなろうとも顧みたりはしない生物。つまり『非人間的』であろうとも。
生命活動に必要な酸素を適量混ぜ合わせ、供給し続けている。まるで『当たり前』の如くに。ありがたみさえ、感じさせぬままに。
「うわっ! やめろっ! ひいぃぃっ!」
しかし地球が許しても、お天道様は許さない。そう。
太陽神たる天照大神は、この世の全てを照らしていらっしゃる。地球の全ては太陽によって生み出され、やがて(※1)はその太陽に包み込まれて消えゆく(※2)。太古の人が女神とした由縁か。
つまり、彼のこれまでの非道を仮に地球が許したとしても、その全てを見ていらっしゃるのだ。何人たりとも逃れることは出来ない。
※1.約五十憶年後 ※2.地球は確定。火星は考え中。
『キュイン』『キュイィィン』『キュキュッ』『キュイーン』
逆三角形に配置された三つの赤い光が複数組。揃ってアルバトロスの姿を捉える。自動警備一五型だ。
アルバトロスは思わず一歩後ろに下がったものの、それは無意識であって逃げではない。開発者であれば次に『何が起きるか』が判っているだけに、動けなかったのだ。
実際その通りだった。と言うか『仕様通り』だった。
思わず発してしまったアルバトロスの『ひい』の声。それは高田部長によってAIに仕込まれた『禁句』であったのだ。
他人が書いたあちらこちらのプログラムに『余計なケチ』を付けていたアルバトロスも、流石にそこまでは知るまい。
人は『弱点』をさらけ出すのを極端に嫌う。
それは自分を守る家であったならば、さらに顕著となる。では弱点を狙うのが大好きな高田部長は、何処を狙ったのか。
それは『鬼門』である。そして鬼門を守るために植えられているのが『柊』であり、正に『攻撃の起点』となっているのだ。アルバトロスには不運でしかない。が、それも鬼門の運命。




