アンダーグラウンド掃討作戦(四百九十)
「ゲホッ、ゲホッゲホッ。カァァァッペッ! ちっきしょぉぉっ!」
頭上にある瓦礫は思ったより軽かった。凄い衝撃だったのに。
アルバトロスは起き上がると、直ぐに周りを見渡した。腹が痛い。
それもそのはず。どうやら頭が衝突したのは窓だったらしいが、腹より下が衝突したのは壁らしい。出血こそしてはいないものの、相当な衝撃だったことは、破れたシャツが物語っている。
「あぁぁっ! お気にの『朱美シャツ』がぁぁっ!」
悲しかった。二十年前にお世話になった『出会い系ゲーム』が、CG使用の最新版にリメイクされて発売となっていた。心が躍る。
勿論それをいち早くゲット。パッケージに描かれた『朱美』を、とことんまでしゃぶり尽くした頃に、奴が現れた。
陸軍のハッカー『神田伊助』である。
あれは確か、お気に入りの茶店でクリームソーダを飲みながら、脱衣麻雀をやっているときのことだった。奴は突然名刺を出す。
それも『一番良い時』に、しかも『見せ場を隠すように』だ。
開口一番『伊助じゃねぇのかよ』と突っ込んでやると、奴はフッと笑いながら『あぁ。ロシア人とのハーフだからな』と。
直ぐにピンと来た。どうやらこいつは『やヴぇぇ奴』だ。『話が通じるような相手』じゃない見本。嘘じゃない。女の汗と交じり合った香水をも嗅ぎ分ける、『俺の鋭い嗅覚』がそう警告している。
『ヒヒヒ。朱美さんが『推し』のようですね。可愛いですもんね』
どうやらこいつも『俺と同じ側』の人間。つまり『舐めた奴』のようだ。互いに笑顔となって、背もたれへとそっくり返る。
互いに『怪しい奴』と思いながら。
『まぁ俺クラスになると、全ルートをしゃぶり尽くすけどな』
『ヒヒヒ。判ります判ります。私は『キャプチャー』もですけどね』
そこまで言い切った奴は、頷きながら沢山の写真をテーブルにぶちまけた。見せられた写真には流石の俺でも驚く。
一目見てそれが『朱美を楽しんでいる俺』であると判ったからだ。
エロゲームをプレイ中の顔を、ド・アップで撮影されるだなんて。
『やばい。やっぱり俺って、凄くカッコイイッ!』
そう思うことにするまでの時間、僅か十三秒五。
まぁ、俺の『自己ベスト』よりは、断然遅いけどな。
色々あって、その後、本名『神田・チェコネント・イフスロフスキー』とは仲良くやってる。一緒に『新バージョンの情報』をハックしたのは良い思い出だ。
だから後日『あのときの詫び』として貰ったのが、この『朱美シャツ』だったのに。非売品の特別製だぞ? どうしてくれるんだっ!
アルバトロスが今思い出していたのが、実は『走馬灯』だったことに気が付いた読者が、果たして何人いただろうか。
無理もない。何故なら、『アルバトロス以外の描写』が、随分無かったからだ。しかし思い出して頂きたい。
少し前から続く話の流れで、今ここに一発の『ロケット弾』が向かっていることを。その一発が、アルバトロスの目の前にある壁を破壊して、崩れ去るという事実を。ほら、耳を澄ませて?
「んん? 何の音だ?」『ドーンッ!』「またかぁぁっ!」
確かに『一発のロケット弾』が、これで三度目の爆発である。
なぁに。『二度ある事は三度ある』と言うではないか。問題無い。




