アンダーグラウンド掃討作戦(四百八十九)
ロープに掴まって黒田は宙を舞っていた。身軽だ。凄く。
さっきまで力の入っていた腹筋が緩み、腰も大分楽になった。旋回するヘリに合わせて振り返れば、見えて来たのは本部の惨状だ。
「派手にやっちまったなぁ。もうあの拠点はダメだな」
本部が落ちるのは『時間の問題だった』と諦めるべきだろう。
そもそも正規軍と正面からぶつかってしまっては、『勝てない戦い』だったのだ。ほら、見れば判るだろう。装備が違い過ぎる。
三つの通りから迫りくるロボ軍団の内、たった一隊が到着しただけでコレだ。中央は未だバリバリ戦っているようだが、奥に見える左翼はもう突破されている。
「皆、生き残れよぉ。弾が尽きる前に撤退なぁ」
聞こえないだろうけど、一応声だけは掛けておく。
幾ら巧みに情報を入手し、入念な準備を積み重ねていたとしても、負けるときは負ける。戦場に『絶対』は存在しないのだ。
第一、『何かのきっかけ』で全てが崩壊することなんて、戦場では良くあることだ。故に重要なのは『撤収の準備』までキッチリと計画し、それを見事に完遂することである。
まっ、その際、『多少の犠牲』には目を瞑ろう。そのときだ。
『シュポーンッ!』「あっ! あの野郎っ!」
黒田は驚く。思わずロープを離してしまう所だった。
間違いない。オマケで付けて貰ったロケット弾を、勝手に発射しやがった馬鹿が居るではないか。
「一発しか無いんだぞっ!」『シュルルゥゥゥッ』「あぁあぁあぁ」
光跡を残してロケット弾が飛んで行く。どう見ても『適当に撃った』としか思えない有様だ。フラフラしているではないか。
良く狙っていれば、もっとビシッと飛んで行くに決まっている。
『ドーンッ!』「おぉっ? 良いトコ入ったかぁ?」
数多の爆破物を仕掛けた経験から、『この辺が弱点だろうなぁ』と思うことがある。それは『図面』を見て計算し、ピンポイントで確認することもあるが、パッと見ただけ判ることもある。
一流の建築士は、壁の中に隠れている『柱』『梁』『鎹』が何処にあるか判るらしい。それは経験というものだろう。
超一流? それは壁の中に隠しているエロ本まで見抜く能力だ。
「イイネェ。ゴー、ヨン、サン、フタ、ヒト、マルゥゥゥッ」
勝手にカウントダウンを始めていた。それがゼロになった瞬間、ゆっくりと壁が崩れ始める。さっき『屋根による支え』が消失して、構造が脆くなっていたからだ。もう止めようが無い。
「イィエェェイッ」『パパパパッ』「うわっ」『チンチンチンッ』
喜びも束の間。ロボ軍団の足止めにはなったが、退避していた人間からの攻撃が殺到する。頭の上で跳弾したであろう火花が。
完全に『ヘリを敵』と認識し、寄りによって黒田を狙って来ているではないか。黒田は苦笑いしながら首を傾げる。
「狙われる覚えなんて、何も無いんですけどぉっ!」
どう見ても『陸軍の味方』にしか、見えないではないか。
ヘリの塗装は迷彩柄。どう見ても『軍隊風』だし。機体番号やら部隊マークなんかはまだ入っていないけれども。それが怪しいのか?
思い出して欲しい。最初の攻撃は『本部への急襲』であったし、次の攻撃は『本部への直接攻撃』だったのに。




