アンダーグラウンド掃討作戦(四百八十五)
ヘリの操縦は難しい。こんな狭い場所での飛行なんて、絶対に引き受けるんじゃなかった。今更『降りる場所』も見つからないし。
贅沢は言わない。ヘリポートを用意しろだなんて。壁が無くて、平らで広い場所があれば、この際何処でも良い。
この『元商店街』みたいな所を抜ければ、そんな場所があるか?
ヘリでも飛行機でも、普通は遠くを見て操縦するものだ。
平衡感覚を常に保つには、水平線や地平線を頼りにしているから。
しかし黒井は流れ行く景色の先、僅か数十メートル先を追うので精一杯であった。幾ら視力が良くても、何屋だったまでは判らぬ。
次々と現れる左右の壁を避ける度に、細かい姿勢制御をし続ける。
そして多分だが、『プロペラを壁に擦り付けてはいないはず』なのに、何故か壁が崩れる音が後ろから。
「ちっ、また当たったのかぁ?」『ウワァァッ!』
進路を右にした瞬間だった。エンジン音に紛れて人の声がする。
気のせいだろうか。いや違う。パッと後ろを振り返ると、垂れ下がったロープが前後に暴れているではないか。
しかも、『ピンッ』と張られたまま。どう見ても『誰かがぶら下がっている』に違いない。黒井は慌てて前を向き、操縦桿を引く。
「冗談じゃねぇ、タクシーじゃねぇんだぞっ!」
思わず叫んでからの急ブレーキ。バリケードに妨害されて、後ろのロボ軍団は直ぐは来まい。一旦は『安全圏』と判断。
止まれと言って直ぐに止まれる程の技量はないが、後ろから『ギャーギャー』言われなければ何とかなるものだ。いやして見せる。
スロットルをギリギリまで緩めた。するとエンジン音が静かになるに連れ、開けっ放しのドアの外から喚き散らす声が。
何を言っている? 更に注意深く減速しながら耳を澄ます。
『首に巻いてあるロープを解けよっ!』『ブルブルブルブルッ』
『手離したら、首締まるだろうがっ!』『ブルブルブルブルッ』
エンジン音み混じって聞こえて来たのはアルバトロスの声だ。
良く聞こえなかったが、察するに『首』にロープを巻いているのだろう。おめでたい奴。きっと『死』をご所望のご様子。
いや、黒井は察した。今頃はもう死んでいるに違いない。
黒田がアルバトロスの首にロープを『巻いた』のなら、それは決して『蝶結び』ではない。ガッチリと『もやい結び』とか『南京結び』で、解けないように縛り付けているはず。
だとしたらもう、奴は死んだも同然ではないか。
一緒にぶら下がっている黒田? それこそ知ったこっちゃない。
黒井がそう考えたのには理由がある。緊急事態の発生だ。
目の前に見えて来たのは『広場』ではなく、『本部』であった。
レッド・ゼロの戦闘指揮所ではないか。その周りに、何かと思えば沢山の『殺人ドローン』がウヨウヨ飛んでいる。
廃ビルだが窓は板で厳重に塞ぎ、ご丁寧に大きな網まで掛けて。
ちらっと見えた入り口付近には、大きなバリケードが進路を塞ぐ。最早何人たりとも出入りは不可能に思え程。今の所は。
そこへ左翼を突破して来襲したロボ軍団が、所構わず乱射を繰り返しているではないか。正に絶体絶命。更に言えば反撃は皆無。
「皆、殺られちまうっ!」『ウオォッ!』『おぉ、何だぁ?』
今『二人分の声』が下から? いやいや。空耳に違いない。




