アンダーグラウンド掃討作戦(四百八十三)
ロープが揺れ始めた。それは一瞬にして『ピンッ』と張られる。
アルバトロスは目の前で、ヘリが揺れ往くのを眺めているしかなかった。自分の首が『スポーン』と抜けて逝く。
首の放物線を思い浮かべた瞬間、ヘリの傾きが変わった。吹き下ろされる風が、ビュンと勢い良く通り過ぎるとロープが緩む。
「しっかりしろっ! 引き揚げて良いぞっ!」
本来『下』を見ていなければ、喉にロープが食い込んでしまう。
それでもアルバトロスは『上』を見上げていた。この『狂ったじじぃ』以外に、誰か『まともな奴』が居たら、このロープを解いて欲しいと思ったからだ。何だったら切ってくれても構わない。切れ。
「誰も居ないじゃないかっ!」「そう言えばそうだった」
今更ながらにそれを言う? アルバトロスは目を見開いて驚く。
「ノープランかよっ! もう良いから放せっ!」
喉が潰されない内に、文句だけは言っておかなければならない。
アルバトロスは生きたいのだ。楽をして、思いのままに。何時如何なるときも自分の意思を尊重し、自分の寿命が尽きるその日まで。
「お前、放したら死ぬぞ?」「放さなくても死ぬだろうがっ!」
だから余計に気に入らない。誰かに『自分の生きざま』を妨害されることを。自分の意思で『生きる意味』を見いだせないことを。
『パパパパッ!』「うわっ!」「おぉ、撃って来やがったなぁ」
再び銃撃が。明らかに『上空のヘリ』を狙っているではないか。
しかし警戒しているのか、怖いのか。『チラ見撃ち』していて狙いを定めてはいないのだろう。明後日の方向に着弾している。
「弾に当たっちまうだろうがっ! いい加減放せよっ!」
そんな様子がアルバトロスには判らないのだろう。兎に角ビビっているだけだ。今はまだ『バリケードの陰』になっているが、吊るされて持ち上がった瞬間、ハチの巣にされてしまうのは明らか。
何度も首を叩いてアピールを繰り返すが、緩む感じはしない。
「そう簡単には当たらねぇよ」「当たるよっ!」
余裕の表情で弾道を見極めている黒田の言葉は、実に頼もしい。
しかしアルバトロスにしてみれば、単に『ふざけている』としか思えない。このままロープを首に巻いて飛んだら、どうなるかなんて想像もしたくない。それでもアルバトロスは首から両手を離した。
こうなったらと、全力で肩にある黒田の太ももを叩く。離すまで。
「お前の言う通り『たまに』しかなぁ」「当たんじゃねぇかよっ!」
鼻で笑いやがった。冗談じゃねぇ。一発でも当たれば死ぬ!
だから結構な力で叩いているのに、痛みは全く感じないようだ。
『パパパッ』『パパパッ』『チンチンチンッ』
「おっ、当たった♪」「あたっtグェーッ!」
アルバトロスの反論は、ウシガエルの鳴き声と共に掻き消された。
このアンダーグラウンドにも、蛙が生息しているのだろうか。
いや聞こえたのは一回だけ。田んぼ道で聞くような『大合唱』に非ず。代わりに響くのは、体制を立て直す『ヘリの羽音』のみだ。
そうそう。忘れていたが『効果音』という意味でもう一つ重要な音がある。発砲音に掻き消されて、誰も聞いてはいなかったのだが。
『スポーン』




