アンダーグラウンド掃討作戦(四百七十九)
「最悪。何考えてるのかしら」「えっ、それって私のもですか?」
富沢部長が顔を歪める。それを見た朱美も渋い顔になって自分を指さす。
「当然。女性は全員分だ。健康診断の結果と紐づけてやがった」
高田部長は思い出したのか、半笑いで答える。
「私、一応『出向者』ですけど?」「関係ない。関係ない」
朱美は自分の個人情報が、何処をどう通って筒抜けになったのか考え始めた。どうにも気分が悪い。
「私、一応『結婚』してますけど? 夫も子供だって居ますし」
宮園課長の『好み』が判らなければ、奴が設定した『抽出条件』を想定することが出来ぬ。どうにも気持ちが悪い。
「いやいや。奴の『ストライクゾーン』を甘く見るな?」
高田部長の鋭い目を見た二人は、最上級の『渋い顔』になって顔を見合わせる。溜息の後、示し合わせたように小さく頷くと同時に、二人はスクリーンを凝視した。
『俺は人間じゃないっ! 人間じゃないんだぁぁぁっ!』
するとそこには『言い訳』をするかのように、両腕をバタバタと振る宮園の姿が。それも、大写しになっているではないか。
「ねぇ千絵、奴は何て言ってんの?」
肩を叩かれて、コンソールを見ていた千絵が顔を上げる。
自分のスリーサイズが『軍のデータベース』に登録されているか確認するために、アタックしていた所だった。作業を中断。
朱美の顔を見て、それから指さされているスクリーンの方に向くと、おぞましい姿が目に飛び込ん来た。思わず表情が歪む。
「え? あぁ、えーっと『俺は人間じゃない』みたいな?」
大写しになっている分、唇も読み易かったのだろう。朱美に渋い顔を見せる訳にも行かず、何とか苦笑いに変えている。
「高田部長、私が殺ります」
朱美が驚く程静かな口調で、しかし力強い声で言う。
まるで人工知能三号機の『薄荷乃部屋爆破シーケンス』を彷彿とさせる冷たい声。
思わず走って逃げちゃう程の緊張感。流石は音声の主だ。
「いいえ高田部長、ここは私に殺らせて下さい」
負けじと富沢部長が割り込んで来た。
別に張り合っている訳ではなかろうが、こちらも澄んだ冷たい声。
流石は人工知能三号機の、先代の声の主と言った所か。『NJS本社ビル爆破シーケンス』にそっくりだ。
「良いよ良いよ。俺が殺る。俺が殺る」
しかし『全ての仕掛け』を知る高田部長は、そんなシーケンスにいちいち驚いたりはしない。どんなときでも『自分だけは助かる』との強い信念と、仕掛けがある。
二人をなだめて、いよいよエンターキーを『ポチッ』と押す。
「あっ!」「ズルい!」『ザピーッ。ザザザァーッ』「あれ?」
高田部長はスクリーンを見ていた。そこには宮園課長の最後の姿が映し出される。はず、だった。
「また切れちゃったぞっ! どうなってんのぉっ!」




