アンダーグラウンド掃討作戦(四百七十八)
本部長にとって『殺人』は、別段躊躇なんてするものではないらしい。だから嫌がる朱美に驚く。
思わず高田部長の方を向く。吹き出しそうにしているこいつなら、さっさと殺ると思ったからだ。
「朱美、無理?」「嫌ですよぉ。気持ち悪い」
あらら。朱美も『始末する』こと自体はやぶさかではないらしい。問題は殺り方か? ほら、にっくき『G』を始末するときだって、バラバラになるまでなんて見たくはない。
人のことを『虫けら』くらいにしか思っていない本部長だ。女心なんて到底判るまい。
「仕方がない。じゃぁ私が殺りますか」
高田部長が司令官席を覗き込む。そこには大佐が『うたた寝』をしているので、キーボードが使えない。歩き始めた。
「楽園送りになんかじゃなくて、地獄送りで良かったんだよ」
「あぁっ! 上手いこと言いますねぇ!」
本部長の言葉に振り替えると、ノリノリで指さした。
そのまま富沢部長の席に行くと、『退け退け』と手を振る。自分の端末は『ゲームをポーズ中』なので使えない。
「ちょっと借りるね」「どうぞどうぞ」
珍しく富沢部長が笑顔で立ち上がった。
彼女にしても『従軍経験』はない。幾らボタンを押せば人が殺せると判ってはいても、それを実行出来るのは訓練と機能確認だけだ。
まぁキーボードを、後でアルコール除菌は出来るにしても。
『止めろっ! 向うへ行けっ! シッシッ!』
スクリーンに映る宮園課長が叫んでいる。
しかし例によって『画像のみ』であり、音声は入って来ない。虚しく口をパクパクさせ、腕を振る映像のみが流れる。
「何か叫んでますよ?」「んん? 言わせておけ。言わせておけ」
だからだろう。朱美がまるで『汚い物』所謂『汚物』を見るかのように指さしても、高田部長の反応は冷たい。
「『止めろ。向こうへ行け。シッシッ』って言ってますけど」
「凄いじゃん! 千絵判るの?」「うん。ちょっとね」
二人の顔に少しだけ笑顔が戻った。嬉しそうに頷く。しかし千絵は内心緊張していた。『規則』と言うか『掟』には絶対服従という厳しい環境で生きて来た。それを守らなかったら『排除されてしまう』ことも理解している。しかし『民間人』もなのか?
幾ら『社員規則』が厳しかろうとも、刑法を超える罰則が果たしてあるものなのだろうか。理解に苦しむ。
「彼は、何をしたんですか?」「裏切りだよ裏切り」「あぁ」
千絵の質問に答えたのは本部長である。
腕を胸の前で組み、顎でスクリーンを指しながら短く答えた。
なるほどと、千絵は頷く。裏切りなら致し方ない。
「あいつ、人事システム担当の癖に、社員情報を売ったんだ」
薄笑いを浮かべた高田部長も顎でスクリーンを指す。
「本当ですかぁ?」「あぁ」「それは酷いですねぇ」「だろぅ?」
今度は人差し指で千絵を指す。賛成票を得て、満足気だ。準備完了。後は『エンターキーを押すだけ』になった模様。
「氏名生年月日性別住所電話番号、それにスリーサイズもなっ!」




