アンダーグラウンド掃討作戦(四百七十六)
娘に言われて流石にバツが悪くなったのか、本部長は鳴らぬ口笛を吹き始めた。今更『何もしてねぇ』を決め込む。
富沢部長は『フンッ』を息を吐いて黙る。
そして正面のスクリーンを見た瞬間、突然叫ぶ。
「あれ? このデブ、宮園課長じゃない?」
本人を前にしてつい『本音』が出てしまったのだろう。慌てて口を押える。朱美も顔を上げた。
「あらホント。こんな所で何やってるのかしら?」
ぶっちゃけ二人は、宮園課長が何処で何をしていようとどうでも良い。マジでどうでも良い。一本の鼻毛ほどの心配すらもしていないのだ。勿論、鼻毛は毎日チェックしていて皆無。
だから今の『捨て台詞』は、事実を淡々と述べただけに留まる。
スクリーンには、二百五十六号機の映像が映し出されていた。
今回納品した調和型無人飛行体には、切り番毎にNJS用のバックドアが仕掛けられている。陸軍には内緒で。
二百五十六号機には、カメラで捉えた映像を逐次送信するソフトウェアが組み込まれていて、敵上視察用になっているのだ。
その映像によると大写しになった宮園課長は、柄に無く後ろの誰かを守るような仕草をしている。男のようだけど。
後続の自動警備一五型と連携して『射線』から移動しつつ、左右に旋回しながらその姿を捉え続けていた。
気持ちが悪いことに、ジッと見つめる目は常にカメラ目線で、いつもの薄気味悪い笑顔をこちらに向けているではないか。
「奴は『処分』したんじゃないの? どうなってんの?」
ヒソヒソ声で確認するのは本部長だ。知らないとは。
「いいえ。ちゃんと『楽園送り』に、したはずなんですけどぉ」
聞かれた高田部長は渋い顔だ。明らかに『バレた』な表情を浮かべ、顎をヘコヘコしながら話始めた。顔色が変わる。
「送ってねぇじゃんかよ」「いてっ」「何で生きてんだ」「いてっ」
「お前の責任だろうがっ」「いてっ」「報告おせぇよっ」「いてっ」
あくまでも『ヒソヒソ声』だ。声が大きくなるのだけはグッと堪えている。その割には、手も膝も全然堪えてはいないのだが。
何しろ、ハッカー集団『薄荷飴』から宮園課長を除名したのは、二人だけの秘密なのだから。女性陣は首を傾げながら、コントが終わるのを待っている。
「何だったらお前を、『楽園送り』にしてやろうかぁ?」
「良いっすねぇ! パイプライン逆流させても、良いぃってぇ!」
右足のつま先を踏まれた状態での膝蹴りが、太ももに決まった。
油断していたのだろう。思わず高田部長が顔を顰め、太ももを押さえながらピョンピョン飛び跳ねる。良い気味だ。
『ズザッ! ズザザザー』「キャッ!」「えっ、何? 今の!」
女性の甲高い声に、思わず注目が集まる。突然響いた『ノイズ』に驚いていると、スクリーンがブラックアウトしたのだ。
送信は映像のみで音は無い。しかしそれが幸いした。もしマイクがあったなら、女性陣は間違いなくちびっていただろうから。
「何があった?」「ゴイチニを呼べっ!」「イチロクが居ます」
「それでも良い! それと、今の映像をスクリーンに出せっ!」




