アンダーグラウンド掃討作戦(四百七十五)
「高田部長、電源戻りましたっ!」「判ってる」
珍しく富沢部長が、明るく『喜びの声』を聞かせてやったのに。聞いた高田部長は、さもぶっきら棒に答えるのみではないか。何だか損した気分だ。
「こちらも戻ります。通信復旧中」「直ぐに部隊の確認を」
キーボードを激しく叩き始めたのは朱美と千絵の二人だけ。残る一同は、ジッと前方のスクリーンを眺めていた。
「左翼側の一部、応答がありません」「中継器は?」「ダメです」
復旧したスクリーンには、多くの『点』が戻って来ていた。しかし戦線を押し進める『左側の一部』が再点灯しない。
電源が落ちていたのは『数分』である。そんな僅かな時間で、部隊が『壊滅的な被害』を受けただと? そんなはずはない。
「再起動の承認をお願いします」「再起動、承認します」
富沢部長もそう思ったのだろう。朱美の再起動申請を直ぐに許可する。何しろ高田部長から『再起動の準備をしておけ』と言われたのだから、文句はあるまい。
『再起動プロセスを開始します』「ちょっと待てっ!」
天井からの声に反応したのは、当の高田部長ではないか。作業をしていた朱美が、驚いて振り返った。
『お父さま、もぉうぉ、かいしぃしぃちゃいマァシィタァケドォォ』
「うそぉぉん。てか何? この声!」
人工知能三号機の声は、高田部長の趣味で『若い女の子の声』をベースとしている。
最初の澄んだ声は、確かに『朱美の声』であったのだが、それが段々と遅くなって行く。
そして遂には、『おっさんの声』になってしまったではないか。
「何ですかぁ? 私の方を見られても困ります!」
ニヤニヤしている高田部長に言い返した。
見回せば皆『笑いを堪えている』ものの、朱美に注目しているではないか。恨むは高田部長である。
「えっ、違うのぉ?」「違いますっ!」
即座に否定したものの、それで高田部長が引き下がる訳も無く。更にニヤケながら、何度も朱美を指さす。
「えぇ? 『あの時』に出す声は、実は『こんな声』とか?」
セクハラである。狭義でも広義でも確実にセクハラである。
「違いますっ! 『アッアァァン』って、良い声出しますっ!」
しかし朱美にしてみれば、それはキッチリ否定せずにはいられないことであった。何せ旦那は富士山測候所に缶詰状態だ。
欲求不満はもう、義妹では収まりが付かなくなっt、(グフッ)
『サイキドウ・ジュンビチュウ』
野太い声が響き渡る。どうやら三台あるサーバーの内、音声処理を行うサーバーが停止し、『地の声』となってしまったらしい。
「再起動・準備中ぅ」「旦那の真似かよ!」「全然違います!」
その声は高田部長なのだが、本人が『仕草付き』で真似して見せる。横からのチャチャは本部長だ。
「全部落として大丈夫なんですか? ちょっとパパもっ!」




