アンダーグラウンド掃討作戦(四百七十四)
「何だこれ。電気が来てないじゃん。道理で何も出来ん訳だ」
牧夫は配電盤の前にいた。異変には直ぐに気が付く。
やっぱりと言うべきだろう。流石の人工知能も、電気が無ければ何も出来ない、『ただの箱』に過ぎない。
いや正確には、『人工知能との回線が切れただけ』なのだが。
人として終わっているとは言え、切れ者である高田部長が『電源対策』を怠る訳が無い。復旧は実に簡単だ。
電撃髑髏マークの絵が付いた『高電圧 触るなボケ』の張り紙をビリビリッと剥がし、『東電⇔国電』と書かれた箱の蓋を開ける。
そして、中にある大きなスイッチを、反対側に倒せば良いのだ。
「これを『自動切換え』にしときゃぁ良いんだよ。全くぅ」
そう言いながらA3の紙を剥がす。高田部長自らがデザインした『警告文』で、牧夫が印刷したものだ。
年一の訓練で、実際に切り替えを実施しているのも牧夫であり、ある意味『手慣れている』とも言える。
『ビリビリッ』「うわぁぁっ!」
剥がした瞬間に、何故か『電撃』が来た。左手を押さえる。
見れば警告文の裏には『銀紙』が裏打ちされていて、リード線が伸びている。そしてそのリード線は、扉との隙間から『危険な箱の中』へと続いているではないか。箱と同化する色使いまでして。
「馬鹿なの? それとも殺す気なの?」
多分両方だ。高田部長に言わせれば、『ハッカーならそれ位は華麗に躱してこそ』とか言い出しそうである。
『今度こそ色の具合はどうだ? 見せて見ろ。どうも色味が合わん』
『もぉ何がどう変わったんですかぁ。赤は赤っすよぉ。忙しいのに』
『馬鹿だなぁ。『血の色』ってのは、もっとこう、どす黒いんだっ』
『だからって、そこまで再現しなくて良いでしょうに。はいどうぞ』
『おぉっ良い感じじゃないかぁ。正に血の色。良し。これで行こう』
『良かったですね。まぁ誰かさんの血の色とは違うんでしょうけど』
『俺の血の色が何だってぇ? 何だったらお前のと比べてみるか?』
『ちょっと机から何出すんですかっ! 落ち着いて止めて下さい!』
『トカレフだよトカレフ。昨日新宿で買ったんだ。試し撃ちすっか』
『落ち着きましょう? ねっ? せめて国産! それは駄目っス!』
『お前が余計なことを言うから、俺も余計なことをしただけだぞぉ』
『あぁすいませんでした。これで決まりっすね。私、貼って来ます』
『良いっ! 俺が後で行く。まぁ、早速試し撃ちもしたいからなっ』
三週間と三営業日前のことで、すっかり忘れていた。
しかし、最後の『ニヤケ顔』まで思い出す。悔しい。そんなやり取りがあった時点で、高田部長をもっと疑うべきだったのだ。あと、武器の仕入れルートも。『何かの跡』を見て思う。
溜息をついて牧夫は蓋を開けた。赤くて大きなスイッチが現れたが、それを『ガチャン!』と切り替える。
『パァァァン!』「うわぁぁっ! って、何だよコレェェッ!」
突然火薬の音がして、牧夫は紙吹雪に包まれた。
しかし高田部長のすることにしては珍しく、『既製品のクラッカー』が仕掛けてあるだけではないか。
「途中で面倒臭くなったのかぁ? まっ、お陰で命拾いしたけど」
どうやら今回、本部長は絡んでいないらしい。




