アンダーグラウンド掃討作戦(四百七十三)
被弾した音と共に火花も散っていた。黒星が驚いたのはそっちだ。
「大丈夫だって、言ってんべ。何やってんだ?」「うるせぇ!」
遂に赤月が切れた。それにも黒星は驚く。折角守ってやったのに、わざわざ殺されに行きやがって。と思っていたらこの言い草。
「ロボも来てるのに、お前なんかに構ってられるかっ!」
顎でバリケードの方を指し示す。指で指し示せないのは、赤月がマンホールの蓋を担いでいるからだ。まるで『盾』のように。
相当重いに違いない。しかし今は『死ぬか殺されるか』の瀬戸際。
火事場の馬鹿力とはこのことだ。全く重さを感じさせない動き。
「うおりゃあぁぁぁっ!」『ビュンッ!』
弾切れなのか、考えているのか。それは判らない。兎に角一瞬の間隙を突いて、赤月はマンホールの蓋を投げ飛ばした。
幾ら赤月が『元円盤投げの選手』であったとしても、それはちょっと無理がある。何しろ重量は四十キロもあるのだから。
『ドガーンッ!』「マジか!」「当たったっ!」
ど真ん中に命中した。軍事用とは言え、所詮『ドローン』である。飛ぶために必要最低限の強度しか保持してはいない。
だから四十キロもある鉄の塊が、風切り音と共に衝突したら目も当てられない『惨状』となるのは明らかだ。
『ゴンッ! ドガーンッ!』「二連荘!」「嘘だろっ?」『ガッ!』
弾切れになって仲間を呼び寄せたのだろうか。何処よりフラフラとやって来たドローンに対し、最初の勢いのまま衝突だ。
二機目もあえなく大破してしまった。そしてマンホールの蓋は、廃ビルの壁にぶっ刺さってやっと止まる。
流石にそれ以上は、何も起きなさそう。著者の気分次第だが。
「あばよっ」「えっ嘘だろ? おいっ」『あっ、見捨てられたか?』
別に『マンホール』なんてそこら中にある。だから、黒星が引っ掛かっている所に固執する必要なんてないのだ。さっさと次へ。
勿論、マンホールの蓋を投げ飛ばす程の男。持ち上げて横に退かすなんて朝飯前以外の何ものでもない。さっさと行ってしまった。
「チキショーッ、どうすんだよっ!」『じゃぁ俺も行くわ』
「待てよっ!」『待たねぇょぉぉぉ』『カンカンカンッ』
遠ざかる足音。きっと下でも全てを理解したのだろう。
捨て台詞までが遠ざかって行くのが判る。黒星は道路に突き刺さったまま、完全に置いて行かれてしまった。人生に再び訪れた危機。
するとそこへ、調和型無人飛行体の一個編隊がやって来たではないか。黒星は逃げられずに、ただ周りを見渡す。
赤月が大騒ぎを起こしたから、仲間を呼んでしまった格好だ。
最悪。思い起こせば三年前、確かに『そんな仕様』があった気がする今日この頃である。しかし『俺は大丈夫』と思いたい。思え。
「止めろっ! 向うへ行けっ! シッシッ!」
犬みたいに言ってみても、それでどうにかなるものではない。
そこは自分が決めた『仕様』なのだから、仕様がないではないか。
「俺は人間じゃないっ! 人間じゃないんだぁぁぁっ!」
遂に耐え切れなくなったのか、黒星は絶叫し始めた。
今まで行って来た『数々の非人道的行為』が思い起こされる。
しかしそれでも『反省だけはしない』のが、黒星の良い所だ。




