アンダーグラウンド掃討作戦(四百六十八)
「ヒッ」
普通声は息を吐きながら出すものだが、今のは息を吸っていた。
『ブゥン!』『ブゥン!』『ブゥン!』『ブゥン!』『ブゥン!』
頭上では何事も無かったかのように、調和型無人飛行体が通過して行く。弾丸を一発減らした奴も、既に遠くになりにけり。地面に転がった『双眼鏡』には興味も無いようだ。
『ゴンッ』「こっちに来るぞぉ」『ドッガーン』「うわぁぁっ」
遠くから聞こえる『謎の音』に、赤月は横目で確認する。するとそこには、さっきとは異なる光景が広がっていた。信じられない。
どうやら『総員退避』の命令は届いていたようだ。良かった。
しかしそれが『吉』と出るか『凶』と出るかは、各位の運次第である。パッと見連中には、どうやら『凶』と出てしまったらしいが。
崩れ落ちた壁の下、歩道だろうか。そこで眠り込んでしまっている。おいおい。そこで寝るな。風邪引くぞ。しかし何かがおかしい。
「くるなぁぁっ!」『ドォォォンッ!』「おわっ」『ガラガラッ』
そうなのだ。目の前で起きた出来事なのに、赤月の違和感は高まるばかりだ。理解を超えていると言っても良い。
レッド・ゼロの言う『フワフワ』こと『調和型無人飛行体』は、簡単に言えば『殺人ドローン』である。
姿勢制御はコンピュータで行われ、『一発芸』とも言える攻撃は『頭部への弾丸必中攻撃』と聞いている。
「壁ドンって、何だよそれ」『ブゥン! ゴンッドォォォン』
「そんなの聞いてないよ! どうなってんだよっ!」
思わず叫んでいた。正確には、今のは『壁ドン』ではなく、『壁ゴン』だったのであるが、そこは問題にもしていないご様子。
多分『好み』では無かったのだろう。罪な奴だ。
付近は兎に角、次々と曲がり損ねる『調和型無人飛行体の明かり』で、昼間のように明るくっていた。
もうこんな所で寝ている場合じゃない。これではもう『通常カメラ』でも、『人』として認識可能ではないか。そうに違いない。
起き上がると、目の前には『別の地獄』が迫っていた。
自動警備一五型の群れ。赤い目が揺れ動く。その横には、何と『人影』が映っているではないか。
人影とはこの場合、陸軍を敵に回しているのだから、当然『兵士の姿』なのである。兵士とは説明するまでもなく、人を効率良く殺す訓練を施した者のこと。その集団が軍隊である。
つまりこれは、機械と人とが織り成す『殺戮の共演』の開幕だ。
「冗談じゃない! やってられっかっ!」
赤月は走り始めた。姿勢を低くして素早く。兎に角速く。
しかしそれでいて、弧を描くようにも動いていた。別に誰に教わったでもない。あえて言えば『G』をイメージしてだろうか。
巨大食品庫の明かりを『点けた瞬間』の光景を、思い浮かべて欲しい。多分『今のは幻だ』と思わざるを得ないだろう。正にそれ。
きっと調和型無人飛行体にも、そう見えていたに違いない。又は誰とは言わないが、NJS開発者の中にも『G』を苦手な者が居て、生物としての動きを学習させなかったのだろう。
現に赤月は『緊急脱出口』まで、無事に辿り着いたのだから。




