アンダーグラウンド掃討作戦(四百六十七)
「本部、こちら五番隊赤月どうぞ」『こちら本部。どうした』
赤月は『ぼくのかんがえたさいきょうのさくせん』と書かれた紙と、一台のトランシーバーを赤星から受け取っていた。
正確には取り扱い説明書と封筒に同封されていて、何だろうと思いながら取り出したものだ。裏にはご丁寧にも『読んだら燃やせ』の文字。思わず封筒ごと破り捨ててしまった。
おぼろげな記憶によると、本部に繋げられるのは一度きりのみ。
実態はトランシーバーの出力を、『違法レベル』にまでアップさせたものだから『電池の消費が半端ないから』なのだが、そこまでは書いてなかったので判らない。だから赤月は、『決死の覚悟を伝えるため』と受け取っていた。大きく息を吸う。
「ポイント6E地点、西から敵主力が来るので陣地を放棄する」
『何だって?』(ブツッ)
反論は認めない。赤月は無線を切る。そしてもう一台のトランシーバーの方に持ち替えた。グズグズしている時間は無いのだ。
「こちら赤月、作戦中止。総員退避!」
バリケードの陰で叫んだ瞬間、隣に見えていた男の足がヒュッと動いた。双眼鏡で監視を続けていた男が、急にしゃがんだのだ。
『飛行物体多数、こちらに向かって来ます!』
何機か数えるつもりも、これ以上バリケードの上に頭を出すつもりも無いらしい。足を丸めて体を小さくする。ポケットから『銀色のピクニックシート』を出すと、頭から足の先までをすっぽり覆う。
訓練通りの機敏な動きだ。赤月も同じことをしなければならぬ。
「フワフワ来襲! 頭を低くしてやり過ごせ!」『ブゥン!』
無線が通じたかなんて確認するつもりはない。既に一機が通過していたからだ。慌てて赤月も頭を隠す。下半身は丸出しだが、決して『そう言う意味』ではなく、あくまでも『防御的な意味』でだ。
『ブゥン!』『ブゥン!』『ブゥン!』『ブゥン!』『ブゥン!』
赤月は人差し指でシートをそっと押し、外の様子を伺う。
人間『判らないこと』があると好奇心が騒ぎ出す。例えそれが『命の危険』があったとしても。いや、だったら尚更なのかも。
「何か、妙に速くね? なぁ、どう思う?」
死んだふりをしながら、隣の男を足で小突く。
『何がですか! そんなの、どっちでも良いじゃないですか!』
小声でも判る程に怒れる声。小さな物音だって検知されるのに、言葉なんて発したら即『人』と認識されてしまう。
だから訓練でも言われたように、『絶対禁止』であるからにして。
『ブゥン!』『ブゥン!』『ブゥン!』『ブゥン!』『ブゥン!』
「ほらっ」『静かにっ!』「それに、通過っておかしくね?」
また通過した。速過ぎて良く見えない。『羽音』が無ければそれはもう、見逃してもおかしくはないレベルで。
それに『通過』とは、発砲も何もせずにただ通り過ぎること。
レッド・ゼロの中では『殺人ドローン』と言われている『調和型無人飛行体』が、人が居ても何もしないのがそもそもおかしい。『飛びながらの必中攻撃』が売りだったはずなのに。
『ブゥン!』『ブゥン!』『ブゥン!』『ブゥン!』『ブゥン!』
「ほらっ!」『静かにって、言ってんでしょうg』『パンッ!』




