アンダーグラウンド掃討作戦(四百六十六)
「奴ら、動き始めましたぜ!」「良しっ! お前ら構えろ!」
双眼鏡を覗き込んだままの男の横で、もう一人の男が指示を出す。
赤星に命じられて『見張り役』を仰せつかった男。それが赤月だ。
「こちら壱班、弐班から見てどうだ? オーバー」
姿勢は低くしているが強面の長身。壱班の班長である。
『こちら弐班。こっちからも来てるのを確認。どうぞ』
応答を聞いて赤月の顔が曇る。暗くて見えないけど確かに。
『こちら参班。こっちも来てるぞ。指示を頼む。オーバーッ!』
どうやら陸軍の進軍は、再び『横一列』のようだ。こちらの人数が決定的に少ないのを見越しての、波状攻撃なのだろうか。
陸軍による当初の作戦は、我らが五番隊の『殴り込み』で失敗したと言って良い。敵の攻撃によって蔵前橋通りまでは押し込まれたものの、現状はそこで何とか踏み留まっている。
良くやったと思うし、自分だって良く生き残ったと思う。
しかしそれは、全部『長い準備期間があったから』なのだ。
大挙して逃げ出した陸軍を見て、我々は『勝利』を確信した。
レッド・ゼロの本部へ報告したときの話によると、きっとNJS本社ビルに突入した連中が、『マザーコンピューター』を止めてくれたのだろう。とのことだ。流石だ。
しかしあろうことか、陸軍は『逃げた』のではなく『再編成』しただけではないか。残存部隊を全て集結させて。
赤星さんの話によると、壱班の場所を示してこう言った。
『敵は壱班の方へ真っ直ぐ来るから、横から弐班と参班で叩け』
「これじゃ、防ぎようがないじゃないか……」
赤月は呟く。しかし文句を言おうにも言えない。それは『怖いから』じゃない。奴が『この場に居ないから』なのだ。少し前のこと。
『この作戦は、お前にしかできない』『俺がですかぁ?』
『そうだ。俺よりもお前の方が建端がある』『そんなことで……』
『いや重要なんだ。身長何センチだ?』『百八十五ですけど』
『ほら。凄いだろぉ。なぁ皆ぁ!』『……』『……』『……』
『じゃぁ早速、皆に指示して。作戦通りにな』『はいぃ』
『これ無線。まぁトランシーバーだ。班長に渡せ』『はいぃ』
『何だしっかりしろぉ? 我々の運命が掛かってるんだからな?』
『でも、本当に、『俺』なんかで、良いんでしょうかぁ。ご自分で』
『あぁ、御免。俺は駄目だ』『えぇっ、そうなんですかぁ?』
『赤山隊長から『お前は個人技専門だから』って言われちまってぇ』
『そう、ですかぁ。隊長に言われたんじゃ、しょうがないですねぇ』
『だろう? それに隊長がお前のこと言ってたぞぉ?』『本当に?』
『本当だよ。『あのデカいやつは使える』って』『勘違いですよ』
『勘違いじゃないよ。隊長は皆のこと良く見てるんだから。なぁ?』
『はい。じゃぁ頑張ります。敵がココに来たら左右から挟撃ですね』
『凄いじゃないかぁ。作戦もう覚えたのか』『いや、これ位は……』
『やっぱ隊長の見立通りだ。歴戦の策士たる俺が三日も寝ないで考えた作戦を、一目見ただけで覚えやがって。いやぁ。凄いなぁ』
『この作戦を、そんな前から考えてたんですかぁ?』
『お前、今から『赤月』な。隊長にも報告しとくから。頼むなっ!』
そう言い残して、赤星は暗闇へと走り去ってしまったのだ。
まるで流れ星のように、一筋の光を残して。




