アンダーグラウンド掃討作戦(四百六十三)
貨車に固定されていては、ヘリコプターは確かに飛べない。
「そんなこと言わずぅ。このままビューンって行けないのかぁ?」
ニコニコ笑いながら黒田が問う。黒井は『次の手順』を中断して、パッと振り返った。
「無理に決まってんだろ!」「へいへい」「もう回すからなっ!」
例え操縦が出来なくたって、それ位は判って欲しかった。
黒田がやっと動き出す。しかし途中で立ち止まり、振り返る。
「連結器の方を外したら、貨車ごと行けんじゃね?」
とんでもないことを言い始めて、思わず黒井も振り返る。
「無理に決まってんだろっ! 何トンあると思ってんだよ」
「だってほらぁ。戦車ぶら提げて行けるのもあんだろ?」
拳を『ブラブラ』させて、戦車を表現しているのだろうか。
「良いからさっさと外して来いよっ! 置いてくぞっ!」
一発かましてやると、黒田は首を竦めて後部ドアから降りた。
やっとだよ。そう思って黒井は『飛行手順』を再開だ。しかし黒井は自分でも気が付いていない。
何だかもう『飛ぶ気』になっていることを。ローターが回り出す。
黒田はご機嫌で、固定されている車輪を解除して回る。
見上げればメインローターが、もう回り始めたではないか。段々と加速しているのが判る。風圧も感じる程に。順調順調。
しかし何だかんだ言って、黒井は『空が好き』なのだろう。
飛び立っても『大空』なんて存在しない、アンダーグラウンドなのだが。今はそれを指摘するのは止めよう。
「機長! テイクオフッOK!」「ちゃんと外したんだろうなぁ?」
後部ドアから乗り込んだ黒田に、前を向いたまま黒井が問う。
「あぁ。ちゃんと外したぞっ!」「よし! 行くぞっ!」
振り返って『黒田の表情』をチラっと確認する黒井。冗談抜きで、ロックを解除してくれただろうか。自分でも確認すべきか?
そのときだ。強力なライトが黒井の目に飛び込んで来た。
「掴まってろっ!」「おうっ!」
ジープがこちらに向かって来る。逆光で良く見えないが、明らかに『陸軍』であろう。乗車した二人の内、助手席の男が身を乗り出しているのが判る。停電は復旧してはいない。
それでも静かな貨物駅で『ヘリコプターの爆音』が響き渡れば、誰だって『何だ?』と思うに違いない。
今更『ロックを外したか』なんて、確認している暇は無し。
意外にも黒井は落ち着いていた。照明を付ける余裕さえある。
どんどん近づいて来るジープに全く怯える様子もなく、寧ろゆっくり、慎重に操縦桿を操作していた。操縦に集中だ。
何しろ黒井には領空侵犯機に対し、何度も『スクランブル』をした経験がある。自分が『最後の砦』と思えばこそ焦りは禁物。
機体がふわりと浮くのを確認。無事離陸だ。
旋回しながら『こちらも負けずに』と、サーチライトの明かりで照らしてやる。するとジープがフラフラし始めたではないか。
まさか本当に『飛ぶ』だなんて、思ってはいなかったのだろう。
「やったなぁっ!」「あぁ。早く外に出ようぜ」
興奮気味に叫ぶ黒田に対し、黒井の声はそうでもない。
飛行高度と同じく低い声で、小刻みに震えながら。




