アンダーグラウンド掃討作戦(四百六十二)
「嘘じゃねぇだろぉ。ちゃんとはまってるよぉ」
黒田はニヤニヤしながら、接続部分をバンバン叩いている。
「判ったよ。わーかったよぉ。凄いです。ハイハイ」
そんな馬鹿力で叩いたら、ポッキリと折れてしまいそうだ。黒井はそう思って、両手で止めさせる。判ってくれれば黒田も叩かぬ。
「じゃぁ、エラーが直ったか、早く見て来いよ」
黒田が操縦席を指さしている。黒井も頷いて行こうとしたが、まだ『お仕事』は残っていた。真上を指さす。
メインローターのブレードが、上下に重なっている。
「これ、こんな風に『十字』になってないとダメだから」
腕を平行にした状態から十字に変化させて説明した。
黒田はポカンとしているが、実物と見本を交互に見て一応頷く。
「あぁ、そう。『箸』から『十字架』にチェンジね。どうやんの?」
「どっかマニュアルでも無いのぉ? じじぃが買ったんでしょぉ?」
言われた黒田が、その辺をキョロキョロしている。
しかしテイルローターならいざ知らず、組み立てマニュアルがそう都合良く転がっているはずもない。
「何だよ。教えてくれよぉ」「エンジン掛けないといけないから」
逃げるように早々に立ち去る黒井のことを、黒田は恨めしそうにチラチラ眺めるだけだ。黒井は冗談の一つでさえ言う気にならぬ。
操縦席に戻った黒井は一度電源を切り、再度手順を繰り返す。
ちゃんとエンジンが掛かって、『飛んで欲しい』と思う気持ち、何とゼロ%。『飛びたくない』気持ちが二百%だ。
「チッ。何だ。正常かよぉ……。どっか壊れてる所、無いのかよぉ」
黒田が聞いていたら、頭をゴツンとやられるに違いない。
しかし今は、『命』が掛かっているのだ。何かしらの理由を付けて、是非『飛ばない方向』に向かって頂けると嬉しい。
黒田はエンジンを掛ける前に『エラー』を探して、スイッチをパチパチと触っていた。同じスイッチを何度も操作したのを含めて。
「結構簡単だったぞぉ! 順調か? 良し。行こうぜ!」
「もう終わったのかよ! 大丈夫なんだろうなぁ?」
突然肩を叩かれて黒井は振り返る。覗き込んでいた黒田の顔が、滅茶苦茶近い。ニッコリ笑いやがって。
遊園地の飛行機に乗るのとは、訳が違うんだからな?
「意外と簡単だった。マニュアル無しでも行けた!」「まじぃ?」
まるで『流石俺』と自分を褒め称えるやふに、親指を突き立てて自分を指している。口角をグッと上げた、満面の笑みだ。
「良いから、エンジン掛けて見ろよ」「判ったよ。行くぞぉ」
APU始動からエンジン始動までの手順をこなして行くと、小気味よいエンジンの音が鳴り出した。流石に二人は顔を見合わせる。
黒井の笑顔は『やや微妙』ではあるが。
「やったなぁ!」「仕方ない。じゃぁ、覚悟を決めて行くぞっ!」
黒田に向かってじゃない。黒井自身に言い聞かせるように宣言。
「ちょっと、その前にお前さぁ」「何だよ今更ぁ。おしっこかぁ?」
しかし黒田は、急にビビったのだろうか。呼び止めて下を指さす。
「車輪固定されてるけど、そのまま飛べるの?」「外して来いよ!」




