アンダーグラウンド掃討作戦(四百六十一)
ヒョイと持ち上げたテイルローターを見て、黒井は驚く。
いや、知ってた。じじぃは見掛けに依らず怪力なのだ。例え両手であっても、およそ人間が持ち上げるような代物ではないはず。
しかし身長は足りないようだ。持ち上げたものの、『スポッ』と差し込むのは無理らしい。ニッコリ笑って黒井を見た。
「届かないなぁ。ちょっと腰持って、持ち上げてくれ」
「無理に決まってんだろっ! 何か『台』を持って来いよっ!」
忘れてはいないだろうか。ここは敵地の真っ只中で、今から脱出をしようとしているのだ。
しかも明るくなったら、直ぐに見つかる場所である。今の『停電中』がいつまで続くのかだって判らないのに。
「なんだよぉ。しょうがねぇ奴だなぁ。じゃぁ、お前だ」
黒田が床を目で示した。指示はそれだけ。
黒井も意味を理解して、黒田の腹にパンチをぶち込もうとするも、今はグッと我慢。素直に床に四つん這いになった。一応黒田の方に『ケツ』は向けていない。まぁ、説明するようなことじゃないが。
黒田は靴も脱がずに黒井の背中に乗る。遠慮を知らぬじじぃだ。
「んんっ、まだもうちょっと」「じじぃ。背中の上で痛ぇよ」
「フンッ、届かないなぁ。動くなよぉ」「骨の上は踏むなって」
何だか上と下で言い合いが始まってしまった。
「馬鹿、揺らすな。ジッとしてろっ」「イテテッ。そこはツボッ」
それでも届かないのがイライラするのだろう。止める様子は無い。
「あぁ、クソッ、外れちまった。もうちょっとジッとしてろっ!」
「ジッとしてねぇのはじじぃだろっ! 早く入れろよっ!」
「お前がジッとしてりゃぁ、サッサと終わんだよ。ホレェッ」
踵で背中を踏み付けられてしまった。スゲェ力だ。
黒田は黒井が大人しくなった瞬間を狙って、再び背を伸ばす。
「フンッ! ホレェッ」「イテテテテテッ」
しかし『踏み場所』がよろしくなかったのか黒井が体をよじる。
「だから『背骨の上に乗るんじゃねぇ』って言ってんだろうがっ!」
黒田の奴、絶妙なバランスを保っていて、背中から落ちやしない。
「じゃぁお前出来んのかよ。お前が出来ないからやってんだろぉ?」
「だから最初から『台持って来い』って、言ってんのっ!」
「あぁ。もぅ良いっ!」「……。チッ」
声の調子から、黒田が急に『不機嫌』になったのを理解した。
やっぱり『相棒』として、振り回されているだけのことはある。
黒井は聞こえるように舌打ちをしただけで、再び台へと変化。
「フンッ!」「イテッ!」
今度の『痛い』は『背骨の上を踏んだから』ではなかった。
兎に角痛かったのだ。何が起きたかは判らない。背中に物凄い『圧』が掛かって、床面に押しつぶされていた。そしてもっと判らないのは、その後は何も『重さ』を感じなくなったことだ。
黒井は背中を押さえながらゆっくりと立ち上がり、顔を上げる。
「ほら見ろぉ。ジッとしてれば直ぐなんだからよぉ♪」「嘘だろ?」
テールローターが定位置にスッポリと納まっている。そして黒田がそこを掴んだまま、ぶら下がっているではないか。まるで小説だ。




