アンダーグラウンド掃討作戦(四百六十)
「でも、起動出来るか、判んねぇからな?」「何でだ?」
突然の言葉に黒田の問いも早い。しかし黒井はへの字口だ。
「こいつ、『UHー60J』じゃねぇから」「何か違うのか?」
前面パネルを指さして、素人の黒田に説明だ。
「俺が教わった形とは違うんだよ」「へぇ。そうなのかぁ」
納得して頷く。しかし黒田にしてみれば、大和と武蔵の違いをグダグダ言っているに等しい。陸軍に『違い』なんて判らん。
「これ多分、マジもんの『UHー60』だしさぁ。判るかなぁ」
「まぁ、ちょっとその辺、パチパチッて、やってみ?」
言いながら、手の届く範囲にあるスイッチを触ろうと試みる。
「止せって! 今やるから。触んな。先ずは『電源ON』とぉ」
パパパッと電気が点き始めた。すると黒井は照度を調整する。
「点いたじゃんかよぉ。流石だなぁ(バシッ)」「いてっ!」
肩を叩かれて、迷惑そうに黒田を睨み付ける。
電気を点けただけでこれだ。次は『APU』の起動か。おや?
「じじぃ、こいつぶっ壊れてるぞ?」「新車なのにか?」
黒井が指さした文字を黒田は覗き込み、小さな文字をジッと見た。
「何だ? 『ローターエラー』って」「じじぃ、英語読めるのか」
「うるせぇ! 英語だってロシア語だって判るよ!」「すげぇ」
「良いから、何だよ『ローターエラー』って。直ぐ直んのか?」
「後ろの回転翼だよ。あれが動かないと、ヘリは飛べねぇから」
映画の『墜落シーン』で、おなじみの部品だ。ヘリコプターにとって『ローター』は、機体のバランス保持には欠かせない。
「上に、でっかいプロペラが付いてんだろうよぉ」
黒田は真上のメインローターを何度も指さしている。
「ダメだって。ローターが壊れてたら、飛べねぇんだって!」
当然のことながら、黒井の決断は揺るがない。しかし、黒井はふと思った。『ブラックホークって、列車に乗ったかしら』と。
メインローターには『四枚のブレード』が九十度に取り付けられていて、どう考えても列車の幅を超えてしまうのだが。
「おいじじぃ! こいつ、分解されてんじゃねぇのかぁ?」
つい乗り込んでしまったが、『飛行前点検』も何も、していないではないか。幾ら本職の機体ではないとは言え、パイロットとしてちょっと恥ずかしい。勿論、黒田にバレてないので黙っている。
言われた黒田は両手を腰に当て、次に右手だけを顎へ添える。
「そういえばぁ……部品がぁ」「おいおいおいおいおいぃ!」
黒井は席を立つ。操縦席の扉を開けて外に出た。機体の後ろに回ると、黒田も後部ドアから飛び降りて付いて来る。直ぐに見つけた。
「こんな所にあんじゃねぇかぁよぉ。ローターがよぉ」
梱包されて床の上に転がっていた。しかし、どうしようもない。
「これ『おまけ』じゃなかったのかぁ?」「どう見ても違うだろぉ」
黒田は何を言っているのか。もしかして、ヘリコプターを見たことがないとか? まだ何か言う前に、黒井は尻尾の先を指さす。
「扇風機に丁度良いって、思ってたのになぁ」「ココに付けんの!」
先に言われてしまったが、それも含めて強く否定だ。見ればローターのブレードだって、重ねた状態になっているし。
「じゃぁ、ちゃっちゃと組み立てようぜ!」「えっ、飛ばすの?」




