アンダーグラウンド掃討作戦(四百五十七)
「どうやら、上手く行ったようだな」
意外な程に静かな秋葉原駅である。さっきまで鳴り響いていたモーター音も今は聞こえない。
遠くでは電気が消えたことに驚いて、慌てふためく駅員の姿が。『あろう』と言うのは、見えるのがライトの明かりだけだから。
もしかしたら『銃を持った軍人』かもしれないが、あの慌て振りはやっぱり『駅員の方』に違いない。そうであって欲しい。
黒田と黒井を乗せた貨物列車は、音も無く静かに入線を果たしていた。今の時点では誰も『犯人はコイツです』とは思っていない。
それにしても、誰も気が付かなかったのだろうか。又は列車止めにぶち当たると思って、逃げ出してしまったか。
兎に角、ホーム終端のコンクリートブロックが、非常灯の明かりにより辛うじて見えている。黒井は何とか耐えた。ちびるのを。
「もしかしてコレ、じじいがやったのか?」
上を指さして言う。多分『変電所』は方向が違う。それでも黒田には、黒井が『電気』を示していると判った。ニヤリと笑う。
「停電させてやったんだよ。こいつでな」
運転席横の窓から、外を覗き込んでいた黒田が振り返った。ついでに『運転台』を指さしているが、黒井には当然意味不明だ。
「どうやって?」「良し。行くぞっ」「ちょっと待てよっ」
黒井の問いを無視して、黒田は外に飛び出していた。
とは言っても、ここは『敵陣真っ只中』である。何処へ行くと言うのだろう。どちらかと言えば、運転席の方が安全に思えるのだが。
ホームは当然『貨物用』であった。殆ど地面と変わりない。
流石に周りを警戒しているようだが、明かりはまだ遠くにある。いや、油断は出来ぬ。『一時の停電』なんて、いつ回復するか判らないのだから。回復したら二人の姿が白日の下に。
そうなったら最後。暗視眼鏡を着けた今、真っ先にやられるのは目で間違いない。続いて鉛玉が飛んで来る。
「なぁ、じじい、コイツで『バック』した方が良いって」
黒田の肩を叩いて、振り向いた所で機関車を指さした。
すると黒田は笑ったではないか。そして上を二回指さす。
「ここ、電気来てねぇから」「うぞっ」「嘘ついてどうするよぉ」
黒井はびっくりして上を見た。すると確かにそんな気がする。
普通、電車が通る線路には有るであろう『架線』が、この場所には無いのだ。それはおかしい。有り得ない。
だって今、自分達は『電気機関車』に乗ってやって来たのだから。
「貨物の積み下ろしをするから、ホームにはねぇんだわ」「マジか」
「重機使ってて、ビリビリッと来たらやばいだろ?」「あぁ。成程」
それなら納得だ。しかし、だとしたら、帰りはどうしてるの?
「いつもは『ロクサン』が後ろから押してるだろ」「後ろ? あぁ」
黒田は列車後方を指さす。良く見えないが、ホームの端までなら架線が張られているのだろう。黒井は理解して頷く。
だとしたら、線路を『歩いて逃げる』のだろうか。
「この後、どうやってって、おっと」「何だ。前向いて歩けよ」
突然立ち止まった黒田に文句を言われても、謝るのは御免だ。




