アンダーグラウンド掃討作戦(四百五十六)
『バチンッ! ヒュルルルルルゥ』「おいっ! 何が起きたぁ?」
「飛んだっ!」「何だってんだぁ? 勘弁してくれよぉ」
変電所に詰めていた職員が『重大な異変』を察知した。結果は明らかだ。電気の供給がストップしているではないか。
変電所の役割は、発電所から来た高圧の電気を、業務で使用する電圧まで変圧することだ。それ以上でもそれ以下でもない。
むしろそれしかない。しかし今、明らかに『ゼロボルト』となってしまっている。電気が止まったら、全ての電車が止まってしまう。
その割に監視センターが『真暗ではない』のには理由が。直ぐに非常灯へと切り替わっていた。こんなとき、技術者は意外と冷静だ。
「運行所へ電話しとくから、原因見て来いっ!」「判りました!」
一人がヘルメットを被って出て行った。今のデカい音は『ヒューズ』が飛んだ音に違いない。今の今まで順調だったのに。
男は黒電話の受話器を上げた。アナログ電話の電源は別だから使えるようだ。『ツゥゥゥッ』と音がする。直ぐにダイヤルだ。
「こちら秋葉原変電所。突然ヒューズが飛んだぞっ!」
繋がって直ぐに、語気を強めて捲し立てる。
『こっちも大混乱だ。信号機が消灯して、職員が向かっている』
すると先方の方が、もっと混乱しているようだ。耳を澄ませるまでもなく、電話の鳴る音が聞こえている。怒号も含めて。
だから男は、少しだけ冷静になれた。
「ダイヤ通りだったのか? こちらは規定通りのはずだが」
『それも確認中だが、ちょっと待ってくれ。運行システムが落ちた』
何やら『紙を捲る』連続音が聞こえている。
声だけ聞く分には冷静と感じるが、かなりイライラしているのだろう。捲るときの『シャッ』という音に、物凄く勢いがある。
『今日は重量級の貨物列車が来ているそうだが、特には』
多分電話の向うでは、首を傾げている。男も頷いた。
「それだったら、どちらかと言えば『昨日の方』が多いよなぁ?」
『あぁそうだ。昨日は軍の貨物列車がバンバン来て』「だよなぁ」
アンダーグラウンド掃討作戦に投入する自動警備一五型を、貨物列車で運搬して来たのだ。
だったら確かに、昨日の方が『ヒューズが飛びそう』である。
「ロクサンでも足りなくて、『金太郎』を呼んだのか?」
この『金太郎』とは、EH500形電気機関車の愛称である。
重量級の貨物を引っ張ることが出来る、力のある機関車だ。
『いや金太郎は『出払ってる』って言うんで『桃太郎』を呼んだ』
この『桃太郎』とは、EF210形電気機関車の愛称である。
同じく重量級の貨物を引っ張ることが出来る機関車で、一世代前のものであるが現在も現役だ。
「桃太郎だってぇ? それ、本当に『桃太郎』だったのかぁ?」
電話の向うで、紙を捲る音が急に止まった。
『はぁ? 何言ってんだよ。そこを、間違える訳ないだろう?』
多分笑っている。しかし男は声を荒げざるを得ない。
「お前『EF200』でも来ない限り、変電所は壊れねぇんだよ!」
『すっ、直ぐ調べるっ!(ガチャッ)』
確かに桃太郎の試作機である『EF200形電気機関車』なら、フルパワーを発揮した時点で、変電所は破壊されてしまうだろう。
まだ秋葉原変電所は、相応の補強工事を済ませていないのだから。




