ガリソン(十)
「ちゃんと借りて来たよぉ」
笑顔で父が母に答えている。いつもの食卓だ。
「やったぁ」
「よかったわねぇ」
父の一言で二人は大層喜んだ。それを最後の一口を食べながら琴美は横目で見ていた。
「お父さんもDVD借りて来たんだぞぉ」
一体何枚借りて来たんだ?
琴美は笑顔になりながら、父の方を向いて聞いてみた。
「何借りてきたの?」
「えっとね、大平原の小屋全巻かな」
「んぐっ」
琴美は最後の一口が喉に詰まってしまい、慌てて牛乳を口にした。
父の借りてきた『大平原の小屋』シリーズは、アメリカ開拓時代に生きた家族のドラマで、一体何話あるのか琴美は知らない。
ただ一つ知っているのは、主人公とその家族は第一話から最終回まで同じ人が勤め、最初は子供であった主人公も、最終回では結婚して子供もいるということだ。
一体何枚のDVDを借りて来たのだろう。
「あ、良いわね。後で私にも見せてね」
母は父のDVD借りまくり、という暴走を止める気配はない。琴美はそれも不思議だった。
「琴美のリクエストにも答えたからな」
そう言って父は、悪戯っぽく笑った。嫌な予感がする。
琴美は、何かリクエストしたかなと思って、数日前に新聞を見て言った一言を思い出す。
「まさか、あれを借りて来たの?」
苦々しい顔になって、父の方を睨み付ける。
「正解! 日本の歴史シリーズだよー。これ見て勉強しなさい」
「ずるーい。私のだけ、どうして勉強なのよぉ」
琴美の嫌な予感はよく当たる。溜息を溢す。
お父さん、あのね? 新聞の広告欄を見ながら『これがあれば日本史の点が良くなるのに』と、言ったのは認めよう。
しかしそれでDVD全巻借りてくるとは、ちょっと極端過ぎるのではありませんか?
一体何枚あって、いつ見るんですか?
「受験生なんだから当然だろう?」
父が笑いながら琴美に言った。琴美は父の方を見ながら、笑いながらも口を尖がらせる。
文句を追加しようとしたときだ。母からの小言が先に来る。
「そうよ。最後の『梅雨休み』なんだから、頑張りなさい」
母も笑顔で琴美に言った。言われた琴美は、母の方を見て考える。多分、目が丸くなっていただろう。
しかし母の一言が、どうしても理解出来ない。
今確かに『梅雨休み』と言ったよね? 何? それ?
「う、うん」
琴美が頷いたのを見て、母も納得したように頷いた。