表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
11/1471

ガリソン(十)

「ちゃんと借りて来たよぉ」

 笑顔で父が母に答えている。いつもの食卓だ。

「やったぁ」

「よかったわねぇ」

 父の一言で二人は大層喜んだ。それを最後の一口を食べながら琴美は横目で見ていた。


「お父さんもDVD借りて来たんだぞぉ」

 一体何枚借りて来たんだ?

 琴美は笑顔になりながら、父の方を向いて聞いてみた。


「何借りてきたの?」

「えっとね、大平原の小屋全巻かな」

「んぐっ」

 琴美は最後の一口が喉に詰まってしまい、慌てて牛乳を口にした。


 父の借りてきた『大平原の小屋』シリーズは、アメリカ開拓時代に生きた家族のドラマで、一体何話あるのか琴美は知らない。

 ただ一つ知っているのは、主人公とその家族は第一話から最終回まで同じ人が勤め、最初は子供であった主人公も、最終回では結婚して子供もいるということだ。

 一体何枚のDVDを借りて来たのだろう。


「あ、良いわね。後で私にも見せてね」

 母は父のDVD借りまくり、という暴走を止める気配はない。琴美はそれも不思議だった。

「琴美のリクエストにも答えたからな」

 そう言って父は、悪戯っぽく笑った。嫌な予感がする。

 琴美は、何かリクエストしたかなと思って、数日前に新聞を見て言った一言を思い出す。


「まさか、あれを借りて来たの?」

 苦々しい顔になって、父の方を睨み付ける。

「正解! 日本の歴史シリーズだよー。これ見て勉強しなさい」

「ずるーい。私のだけ、どうして勉強なのよぉ」

 琴美の嫌な予感はよく当たる。溜息を溢す。


 お父さん、あのね? 新聞の広告欄を見ながら『これがあれば日本史の点が良くなるのに』と、言ったのは認めよう。

 しかしそれでDVD全巻借りてくるとは、ちょっと極端過ぎるのではありませんか?

 一体何枚あって、いつ見るんですか?


「受験生なんだから当然だろう?」

 父が笑いながら琴美に言った。琴美は父の方を見ながら、笑いながらも口を尖がらせる。

 文句を追加しようとしたときだ。母からの小言が先に来る。


「そうよ。最後の『梅雨休み』なんだから、頑張りなさい」

 母も笑顔で琴美に言った。言われた琴美は、母の方を見て考える。多分、目が丸くなっていただろう。

 しかし母の一言が、どうしても理解出来ない。

 今確かに『梅雨休み』と言ったよね? 何? それ?


「う、うん」

 琴美が頷いたのを見て、母も納得したように頷いた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ