アンダーグラウンド掃討作戦(四百四十九)
言うまでもないが、高田部長の性格は最低である。
牧夫が自ら認めようと認めまいと、トラブルの原因を全ておっ被せようとしているのだ。
幾ら普段から、飲み屋の会計を割り勘にして貰っているとは言え、牧夫にしてみればたまったもんじゃない。理不尽である。
『困ったことに『バックドア』からも、入れないんですよ』
バックドアとは『牧夫の後ろにあるドア』のことである。強固なセキュリティが施されており、簡単には入れない。
「お前、薄荷乃部屋にPC持ち込んだな?」
それは看過できない、重大なセキュリティ違反である。
『いや、マイコンですよ』「同じだ。馬鹿たれっ!」
PCが『パーソナル・コンピュータ』の略であるならば、マイコンは『マイクロ・コンピュータ』の略だ。確かに両方共、間違いなく『コンピュータ』であり、高田部長は正しい。
『外から人工知能三号機には繋がるんですけどぉ』
どうやら牧夫なりに調査をしているらしい。
「だから外部から繋げんなよ」『まぁまぁ』「で、どうなんだ?」
それこそ『セキュリティ違反』なのだが。しかし一旦スルーされてしまった。これから面白い所、いや、重大局面なのに、全てのコントロールを失っている状態なのだ。復旧が先である。
『反応はするんですよ』「何だ? 寝てんのか? 起こせ」
『いや、向こうが『寝てる。サボってる』って、カンカンですよ?』
受話器を持ったまま、高田部長は考え始めた。
一体、何が起きているのか。本体は絶賛稼働中だが、薄荷乃部屋からの指示が通らない。何故だ。
照明の電気は灯っているから『停電』ではない。
「お前さっき、『バックドアにも入れない』って言ったな?」
突然『ピン!』と来たのか、高田部長が問う。こう見えて、頭の回転は常人の六万五千五百三十五倍は速い。
『言いましたよぉ。いっちばん最初に言ったじゃないですかぁ』
「一番最初は『高田部長大変です!』だろぉ?」
『えぇえぇ……』「だよなっ? なっ!」『えぇ、はいぃぃ……』
何だか言い包められてしまった。細かい男だ。割り勘にするときだって、割り切れなければ小数点第五位を切り上げて来る。
「MDFを見て来いっ!」『えぇっ嫌ですよ。感電しますって』
ココで言っている『MDF』とは『主配電盤』の方である。
牧夫もピンと来たようだ。何処にあるかは高田部長だけが知っていることなのだが、人工知能三号機は本社ビル内に設置されていない。危ないからだそうだ。
しかし今は、それが仇となってしまっている。
どうやら本社ビルとを繋ぐ『回線への電源供給』が、ぶっつりとストップしてしまったとしか言いようがないからだ。
「ちょっと位なら大丈夫だっ!」『ちょっとでもダメですよぉ』
「つべこべ言っていないで、良いから行って来いよっ!」
『絶対嫌ですよぉ。もうこれで何度目だと思ってるんですかぁ』
「判った。特別ボーナスを出す」『了解。行ってきます!』
「十五秒以内に復旧させたらなぁって。あいつ、切りやがった」




