アンダーグラウンド掃討作戦(四百四十八)
「おい、スクリーン切れちゃってるぞ!」「今、調べてます!」
高田部長は富沢部長を責め立てる。すると迷惑そうにチラっと見て、直ぐに自席のキーボードを打鍵する音が聞こえて来た。
「早くしろよぉ」「今、調べてますってっ!」
大したことではないが、『本番中の事故』には違いない。
本作戦が終わったら、原因を調べさせて対策を報告させよう。
何れにしても『自分の仕事』じゃない。高田部長は司令官席にあるディスプレイを覗き込んだ。
「こっちも切れてるな。右のスクリーン、使って良いぞ」
ディスプレイは真っ黒だ。同時に壊れることなんてある?
正面に三面ある巨大スクリーンの内、高田部長はいつも『チェスの対局』で占拠している右側を指さした。
この際、致し方なしだ。使っても良かろう。
すると『意外』と思ったのか、富沢部長の打鍵音が急に止んだ。顔を上げてこっちを見る。
「そっちもですか?」「何だ。そっちも?」「朱美のは?」
意外に思ったのは『チェスをしない』ことではなく、ディスプレイもスクリーンも『消灯している』ことの方だ。
直ぐに前に居る、朱美の方を覗き込む。
「同じくです」「こちらもです」
朱美と千絵が順番に答えると、二人を顔を見合わせて首を傾げる。その様子を見て流石に『おかしい』と思ったのは高田部長だ。天井に向かって話し掛ける。
「ミントちゃぁん! 寝てんのぉ? 何してんのぉ? もしもーし」
『……』
普段だったら、直ぐに『もうおきてまーす』と答えるはずだ。
高田部長はそのまま三秒待つ。次に右手を耳に添えて頭を右に傾げて更に三秒。それでも返事が無い。
仕舞には左耳にも左手を添え、両手を耳に付けたまま頭を左右に振り始めた。良い大人が、まるで幼稚園のお遊戯でもしているかのようだ。不気味な静けさだけが漂う。
天井の照明は点いているのに、あるはずの反応だけがない。
「早く何とかしろっ!」「少々お待ちください」
遂に本部長が切れだした。ゴルフのスイングを止めると、今度は両腕を曲げて水平に上げ、腰を左右に振り出す。
きっと『何か』を実行する前の『準備体操』に違いない。
それでも高田部長に慌てる様子はない。
こんなときのために、薄荷乃部屋を二重化してあるのだ。壁際の黒電話へと向かう。
「再起動の準備もしておけっ」「はい。判りました」
富沢部長に指示をした所で黒電話の受話器を上げた。当たり前だが電話は使える。ワンコールで繋がった。
『高田部長大変です!』「何だ。犯人はお前かっ!」
牧夫の声で、開口一番に報告が。対する返事も早い。
『違いますよぉ。えっ? そっちもですかぁ?』「お前なんだな?」




