アンダーグラウンド掃討作戦(四百四十七)
「富士演習場で、『お宅』を全滅させたのは、ご存じぃ?」
調子に乗っている。完全に。思い出し笑いでニヤニヤしているのを見るに、高田部長は『ドスケベ』のようだ。
大佐の頬をペチペチと軽く叩きながらくっちゃべり、今度は人差し指を伸ばしておでこをツンツンする。『ヘッドショット』だ。
「あぁ。報告は受けている、ます」「そぉれぇよぉおっ♪」
大佐は提出された報告書を読んでも、俄かには信じられなかった。
報告書を書いたのが鮫島少尉じゃなかったら、目次からあとがきまで、表紙を除く全ての頁について差し替えを指示しただろう。
実際にこの目で、見れなかったのが悔やまれる。
何しろ陸軍が考え得る『フル装備』での全滅だ。『ぼくのかんがえたさいきょうのそうび』とは似て非なる物。いや似てんのか。
兎に角、『成す統べなく全滅してしまった事実』は、報告を上げた上層部連中にも大変好評で、直ぐに『最高機密』になってしまった。同件で、そろそろ倉庫が満杯なのだが。
「陸軍にナイショの機能なのか?」「んんっ?」
ただ聞いただけなのに。一人の『客』として。しかし高田部長はニッコリ笑って、人差し指を頬に突き立てる。
「すびばせん。ナイショの機能なのでしょうか?」「いやぁ?」
言い直すと、人差し指の方向がスクリーンへと切り替わる。
「本来こいつはね? JPSを受信して位置を把握するの」「はい」
JPSは、日本上空を飛行する複数の衛星で、『正確な位置』を特定する仕掛けだ。
「JPSを使う利点、判るぅ?」「判りません」
突然始まった『クイズ』に、大佐は迷わず小首を傾げる。
「そぉんなこともぉ? 困ったお客様ですねぇ」「すびばせん」
今度は最初から『丁寧語』だったのに、頬をグリグリされてしまったではないか。今のは『頭が悪過ぎる』ことに対するお仕置きだ。
「電波を受信し続けられるから、でしょうよぉ。考えてねぇ」
「はい。すいません」「判ってくれたなら良いのぉ」
頬のグリグリが終わって、今度はペチペチに戻る。
大佐はいい加減顔を顰めていた。ムカついている訳ではない。
何故なら、回答を間違えた途端、反対側で頷いている本部長から『渾身の一撃』が繰り出されるのは確実。
死と隣り合わせとはこの状況を示している。だったら、高田部長のイビリの方がずっと人道的なのだ。
「でも、アンダーグラウンドなんですけどぉ」「だぁかぁらぁ」
左手でグイッと首を引き寄せられる。物凄い力だ。ついでに、右手中指の第二間接でグリグリされ始めた。皮膚が擦れる程の力で。
しかしそれも、大佐は全く気にはならない。寧ろ有難い。
何か左耳の傍で『ブンッ』という音と共に、『何か』が通り過ぎた感覚があった。直後に猛烈な風圧を鼓膜に感じる。
見る気はしないが、多分隣で『ゴルフの練習』をしているに違いない。ロングシャフトのドライバーで。
「あのっ、痛いです痛いです」「痛いのは生きてる証拠」
高田部長は、全く取り合おうとしない。しかしグリグリを止めて、再びスクリーンを指さした。
「これがNJSが独自に構築した『電波発信網』だよぉ♪」
得意気にスクリーンを指し示したのだが、それがプツンと消えた。




