アンダーグラウンド掃討作戦(四百四十六)
自動警備一五型の充電中に、命令系統も復活していた。しかし大佐も『忙しい』ので、全権は山岸少尉のままに。
大佐は前面のスクリーンを凝視していた。
「鮫島少尉がいれば……。後で探しに行かないとなぁ」
ボソッと大佐が溢す。物凄く頭の痛い問題である。
鮫島少尉の喪失が問題なのではない。言葉は悪いが、アンダーグラウンドで戦死することが問題なのだ。もう、後が大変。
遺体をちゃんと回収しないと、『臭い問題』に発展する可能性もあるし、それにバレたら人工地盤上の住民が黙ってはいない。
「何だ。俺達のときは『放置』だったのに。なぁ?」
地獄耳か。本部長の目が怖い。再び高田部長の顔が近付いて来る。いきなり腹に食らった。
『グフゥッ』目を丸くしていると目が合う。
「あぁ。『時代が変わった』なんて、言わせないぞ? おらぁ」
『グフゥッ。何も言えやしない。言わせるつもりもなさそうだが』
腹筋に力を入れて耐え忍ぶのみ。ここは『本部長よりマシ』と思わなければいけない所だ。何度も頷く。
「速度制限なんて、どうやって解除するんですか?」
質問を言い切った。かなり早口だったが、聞き取れたのだろう。
高田部長はニヤリと笑って右肘を引く。
「そんなの『秘密』だよぉぉ」「教えてやれ(藁)」「えっ!」
腹パンが大佐の腹、五ミリ手前で止まった。風圧だけが襲う。
高田部長の顔を見るに、どうやら『軍事機密』いや『企業秘密』かと思っていた節もある。しかし、責任者の許しが出たのだ。教えてやるのはやぶさかではない。
「この、アンダーグラウンドには、なぁ?」「えぇ、はい」
「NJSのネットワークが、張り巡らされてぇ、いるのだぁ」
丁度中央スクリーンに『アンダーグラウンドの地図』が映った。
高田部長が平泳ぎでもするように手を大きく広げると、秋葉原のNJS本社ビルから一直線に『緑の線』が伸びて行く。
やがてそれは多数に枝分かれしながら、今回の作戦区域全体をくまなく染めて行く。みるみる内に、ネットワークの完成だ。
右側のスクリーンに『中継地点』を表す記号と、状態を表す文字が並び始めた。白文字の横に、緑で『受信中』の文字が並ぶ。
「いつの間にぃ? 陸軍でも無しえなかったことが、何故……」
すると大佐を慰めるように、肩をポンポンと軽く叩き始めた。
「あのねぇ。世の中、進んでいるのっ。ねぇ本部長!」
「あぁ。自分達が『常にトップだ』なんて、思わない方が良い」
自信満々に答える本部長の顔に、やっと笑顔が戻った。伊達にアンダーグラウンドを、『改造車』で走り回っていた訳ではない。ちゃんと『本業』もこなしていたのだ。趣味の範囲で。
「全機、速度制限解除」「全機速度制限解除了解。解除します」
富沢部長の指示を朱美が復唱し、コマンドを叩き始めた。それが秒で終わると確認のために前を見る。
スクリーンに映し出された調和型無人飛行体の速度計に記された『上限』が、どんどん高まって行く。
どうやらNJSネットワークへの接続が完了したようだ。




