アンダーグラウンド掃討作戦(四百四十五)
「ほれ大佐。承認しろよ」「今ならまだ、生きて帰れるぞぉ」
不穏である。バシッと白い制服を来た大佐が、『司令官席』に座ってはいるものの、両サイドから肩を組まれ腹パンを食らっている。
まるで『餅つき』のように、左右から拳を交互に撃ち込まれている様は、一般的な言い方によれば『いじめ』に該当するだろう。
しかし今受けている腹パンの威力は、一般人なら一発で『死に至る』威力なのである。小さく撃ち抜かれているために、周りからは『そうは見えない』のが実情で、断じて『いじめ』ではない。
そう。大佐は並外れた肉体を持ち、強い精神力を兼ね備えた『立派な帝国軍人』なのだ。目を多少白黒させているのは『愛嬌』だ。
「判りました。承認します。承認しますから、もう止めて下さい」
遂にと言うべきか。まだ正気を保っている内に願い出る。すると、左側に居た本部長がニッコリと笑う。
「そうだよぉ。早く承認すりゃぁ良いんだよっ。なぁ?」「えぇ」
右側に立つ高田部長に声を掛けると頷く。いつしか二人の『腹パン』は止んでいた。大佐の顔には安堵の表情が。
そこへ高田部長の顔が、グッと近付く。大佐の顔が再び『ギョッ』となった。思わず手で腹を押さえる。
「右手だったら、死んでましたよ?」「えっ? あぁ。ええ」
笑顔の本部長を指さした。それは言える。
確かに利き腕の右手による『正拳突き』であったなら、防弾チョッキを着ていようと死は免れない。高田部長が素早く右側を占領していなければ、大佐は戦死扱いになっていたことだろう。
「お礼は?」「あああありがとうございますっ」「良しっ」
だから大佐は大きく頷くだけで、指さされた方を見れなかった。見たら何を言われるか判らないからだ。
多分『お前の目が気に入らない』位は確実に言って来る。その後は再び攻撃開始だ。もう勘弁して欲しい。本当に死んじゃうから。
良く『殺すぞ』と言われてから身構えているが、そんなのは戦場では通じない。遅い。当たり前だが、戦場ではいちいち『殺すぞ』なんて、親切な声掛けはしてくれないのだ。ココも然り。
大佐にとって二人は『作戦内容』とか『立場』に関係なく、常に命を狙って来る奴らである。
生かしているのは『利用価値』が有るからに過ぎない。
「大日本帝国陸軍大佐、『特別オプション』お買い上げぇっ!」
高らかに高田部長が宣言する。
周りから見れば『じゃれ合っている旧知の仲良し三人組』が、サラッと購入を決めたようにしか映らないだろう。
「毎度お買い上げ、ありがとうございまぁぁすっ!」
今度は天井に向かってコール。すると人工知能三号機から、早速報告が入る。画面にも数字が表れた。
『陸軍からの振り込みを確認しました』「いや、それは良いから」
苦笑いの高田部長が、大佐の肩を叩く。大佐は『予備費』を使い果たしてガックリだ。銀座のママに何て言おう。
『陸軍から、NJSネットワークへの接続を許可します』
『調和型無人飛行体の速度制限を解除』




