アンダーグラウンド掃討作戦(四百四十四)
『バチンッ!』「うわっ!」
大きな音がして黒井は素早く床に伏せた。情けなく大きな声を出してしまったが、それ位は許して欲しい所だ。
戦場での基本は、兎に角『頭を低く』すること。それに尽きる。だから床に転がった後は、頭を床に付けたまま辺りを見回す。
今のは『電気的な何か』が、吹き飛んだような音だ。
飛行機に雷が落ちて、電装品が派手に飛び散る。そんな感じ。
いや、それはあくまでも『物の例え』であって、実際は帰還後に蓋を開けて『あぁあ。逝っちまった』になるのだが。
今見えている機関車は、飛行機とは比べ物にならない『高圧製品』である。蓋が並んでいて平穏を保っているが、その実内部では今頃『何か』が燃えているかもしれない。鼻をヒクヒクとさせてみる。
しかし何も臭わない。だったら『安全』は確保されたと見るべきか。いや、まだ油断は出来ない。
だってこれから、車止めに向かって一直線に進むのだ、か、ら?
『ウィィィィィン……』「んんっ? スピードが落ちている?」
黒田の野郎は、直前でブレーキを作動させる『チキン』だった。
デカい口叩きやがって。どういうつもりなんだ。
首を横にしていたせいで、床下から聞こえていた『モーター音』が静かになっているのも理解していた。だから黒井は起き上がる。
急いで運転席へ戻り前を確認すると、何と秋葉原駅の下層へと向かっているではないか。馬鹿か? 敵がわんさか居るんだぞ?
「どうするんだよっ!」「どうするって?」
必死になって聞いてみても、黒田は呑気なままだ。しかも既に、『手放し運転』となっているではないか。
黒井は思わず『前方』と『運転台』を交互に見る。
「この後だよっ!」「あぁ、それなら大丈夫だ」
焦る黒井に対し、自信たっぷりの黒田が答える。
「何がだよ。信用なんて出来ねぇよ!」「えぇ? そうなのぉ?」
黒田に対する『信用』とは何か。それは間違いなく『面倒な事態にしてくれる』ことだ。その『にやけ顔』が一番怪しい。
「今まで、散々だったじゃねぇかよっ!」
縦に腕を振る黒井。巻き込まれたこっちの身にもなって欲しい。
「だからぁ、今度は大丈夫だ」「何がだじじぃ! 根拠を言えっ!」
黒田は落ち着いているが、黒井は気が気でない。
何せ『黒井の本職』は飽くまでも『パイロット』であって、『地上戦』は専門外なのだから。銃剣突撃してくる陸軍を、どうやって止めろと言うのか。そんなの『無理』に決まっている。
「そりゃぁ、『お前に任せる』からだよ」
ニッコリ笑った黒田から、ビシっと人差し指で示される。
黒井は混乱していた。黒田のそれが『指さし確認』にしては『指し示す方向』が全然違う。
かと言って『本物』を見れば、見れば? あれ? 見れば?
「随分暗くないですか?」「だろうなぁ」
運転台の上に乗るようにして体を前へ。上を見上げても、そこに見えるのは人工地盤上の屋根であろうか。暗くて何も見えない。
気が付けば、非常灯の明かりだけに、なっているではないか?




