アンダーグラウンド掃討作戦(四百四十一)
速度制限が解除されたのは、路線の特徴による。
カーブ区間が終わり直線になったのもそうだが、この先は登り坂なのだ。しかも高架になるまでの登りだ。
「秘密の接待だからさぁ、『お座敷の方』に居てなぁ」
寿司屋の話が続いている。線路のようにどこまでも。
格好を付け、腕を振りながら親指で『お座敷の方角』を指さしているが、それはどう見ても『秋葉原方面』である。
「ちょっと待って下さいよ。もっと『高い所』じゃないですかぁ」
最早信号なんて誰も確認していない。寛永寺駅のホームに侵入する際の『安全確認』も然り。しかし安心して欲しい。
寛永寺駅の営業は土日祝日のみ。寛永寺一帯を覆う屋根は無いので、雨の日はお休みだ。話の都合上、今日はお休みで人影が無い。
「いやいや『寿司の値段』は、お座敷だろうと一緒だから」
どんな言い訳だ。怒りのボルテージはドンドン上がるばかり。
美味しいときだけ置いて行かれた『相棒』としての立場は?
そんな『黒井の気持ち』も、判らんではない。
アンダーグラウンドでの食事は、実に質素である。
寿司は勿論、刺身なんて暫く食べていない。海に近かった百里基地時代。足を伸ばせば、飽きる程『海鮮』が食べられたのに。
それが寿司屋で、しかも他人の金で飲み食いだとぉ? 許せん!
「絶・対・カウンターとは違うでしょうよっ!」
黒井の詰問に黒田の顔も歪む。少し頭を傾げて『そんなに違うかなぁ』と考え始めた。しかし、直ぐに元へと戻る。
やっぱり高級寿司屋と言えども、寿司屋とは寿司を食う、いや、召し上がる所だ。『お座敷=カウンター』であるらしい。
「そんなに無いよなぁ」「いや。絶対有ります。無い訳がない」
「何だよ。『無い訳』って」「無い訳は無い訳ですよ!」
不毛な言い争いである。無いのか有るのかはっきりせい!
「違いと言えばお前、『奇麗所』が居た位かなぁ」
腕を組んで如何にも『誤差の範囲』で済ませようとしている。
そんな黒田のことを、黒井はとても許せない。許せるはずもない。
「やっぱり有るじゃないですかっ! 何人呼んだんですかっ!」
黒井は切れ気味である。例え『おさわり禁止』であろうとも、奇麗な女性を愛でる機会を失したのだ。
考えてもみて欲しい。水平方向の半径百メートル範囲内に、『ストライクゾーンの異性が居ない』という事実を。
「二人だけど」「はぁあぁ? 一人に一人づつぅ?」
軽く上げられた『ブイサイン』は、別に『勝利』を表した訳ではない。しかし黒井にはそうとしか見えない。
「違うよ。『三味線』と『踊り子』の二人だよ」「同じでしょ!」
目が血走ってしまっている。その内に『鼻血』でも出るんじゃないだろうか。全く上も下も、血の気が多い奴だ。
「知らんのぉ? 大抵二人組で来るんだよ」「知る訳無ぇっ!」
遂にぶち切れてしまった。両手を強く縦に振りながらの地団太。
そんな黒井を苦笑いで見守る黒田だが、速度低下に気が付く。




