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アンダーグラウンド掃討作戦(四百四十)

 貨物列車はいつの間にか、入谷駅に差し掛かっていた。黒田と黒井の醜い言い争いはまだ続いている。床に転がっている機関士は、『やれやれ』と思うばかりだ。両方の意味で。


 運転はそっちのけ。確かにレールの通りに進むのが列車なのかもしれないが、信号の指さし確認も勝手に省略してしまうとは。

 全く。国鉄なんて、安全運行だけが唯一の取り柄なのに。それを投げ打ってしまって、一体跡には何が残ると言うのだろう。


「はぁあぁ? 寿司食いに行ったんですかぁ?」

 どうやら安全運行より大事なことは、食い物のことらしい。

 すると黒田が得意気に人差し指を縦に振る。入谷駅構内進行。


「あぁ、そうだよ。もうさぁ、大変だったんだからぁ」

 黒田は如何にも『苦労した』ような口調である。しかしどう見ても、顔がニヤケているのが怪しいではないか。


「どぉこぉえぇ? 回転寿司っすか? 最近回転してないけど」

 クルクル指を回転させながら、最後はビシっと黒田を指さす。

 場内出発信号、進行。制限五十。


「まぁさぁかぁ」「マジすか!」「接待なんだからさぁ」

 最近は回転寿司も悪くはないが、黒田が言う通り『接待』で使ったのなら高級寿司店と相場が決まっている。


「カウンターでお好みとかぁ? ウニ、アワビ、イクラの連打ぁ?」

 寿司を握る仕草をしながら黒井が問うているが、『普段食べられないネタ』であることが丸判りだ。

 アワビは兎も角、ウニとイクラは軍艦にするだろう。そうガッチリと握ってはダメだ。あと、ワサビを塗る手順が抜け落ちている。

 何だかんだ言っている間に、第一閉塞進行。


「いやいや。カウンターは無いわ」

 苦笑いで黒田が手を横に振る。黒井は前のめりだ。


「えっ? 違うんですか? 『大将、シンコある?』とかは?」

 驚く黒井だが、その後は如何にも『手慣れた感じ』でオーダを入れる様子を再現して見せたではないか。黒田は目を丸くする。


「何だお前、『シンコ』好きなのか? 意外と通なの知ってんなぁ」

 嬉しそうに黒田を指さした。第二閉塞進行。それから舌なめずり。

「いや、食ったこと無いっす。美味いんすか?」

 それを聞いた黒田はガクッと崩れる。椅子からは落ちないが、足元の警笛ホーンを踏んでしまった。


『プォーンッ』「何だ?」「びっくりしたぁ」

 二人共大きな音に驚いている。流石は素人機関士だ。

「まさかお前、『シンコ』って『沢庵巻き』のことだと思ってる?」

 苦笑いで黒井を指さした。第三閉塞進行。警笛良し。制限解除。

 

「えっ、違うんですか? 意外と旨いって聞きましたけど」

 誰かからの『聞きかじり』なのだろうか。実際には見たことも、食べたこともないようだ。


「いっやぁ? 合ってるよぉ? バッチリ合ってるっ!」

 運転台に肘を付いた拍子にブレーキが解除された。速度が上がる。

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