アンダーグラウンド掃討作戦(四百三十五)
ニヤリと笑った黒田が先頭を切って走り出す。
いやそれ、『作戦通り』だから。そう思った黒井も後に続く。
二人は隅田川駅に来ていた。そこで機関車を『ジャック』しようと言うのだ。例によって黒井は『理由』について聞かされていない。
まぁ相手が『悪者』とか、『その道のプロ』ならまだ良い。『日本に攻め込んで来る輩』とかなら、喜んで全ての実力を披露する。
しかし『一般人』はダメだ。元々自衛隊だった黒井が、民間人に手を挙げるだなんて。御天道様が許しても、黒井の良心が許さない。
この世界でそれを『甘い』と言うのであれば、甘んじて受けよう。
だから『ウキウキ気分の黒田』を見ると、ちょっとは腹も立つ。
もしかして、『部下に対し緊張感を和らげるため』なのだとしても。少々心当たりもあるので、それも『有り』かなとチラっと思う。
あくまでも純粋な『予想』として。いや、それは止そう。黒田の性格と普段の言動とを鑑みれば、『絶対に違う』と言い切れる。
「こんばんわー。ご苦労様ですぅ」「何ですかっ!」
バッチリ『国鉄の制服』を着ていて、如何にも『国鉄マン』を装ってはいるものの、そんなノリで機関車に乗り込んで来る輩はいなかったのだろう。機関車を始動した直後の機関士が驚いている。
出発前点検もそこそこに席を立った。突然乗り込んで来た『不審者』に、退場頂こうと言うのだろう。しかし立ち止まる。
機関士が席を立ったのは、最初に乗り込んで来たのが『じじい』だったからだ。首根っこを掴んで外に放り出そうとしていた。
しかし直ぐ後に乗り込んで来た二人目は、ごっつい体の大男ではないか。あぁ、本当は自衛隊員としては『普通』なのだが、『黒田と比べたら』としておこう。
いずれにしろ機関士は、無線機を取ろうと試みる。
「おおっとぉ。それは無しなぁ。俺達『許可』貰ってないんでぇ」
伸ばした腕を、バッと取り押さえられてしまった。
凄い力に驚いて振り返れば、声の主は『じじい』の方ではないか。大男の方は、『俺が手を下すまでもない』と腕を組んでいる。
すると案の定、掴んだ腕をグルリと回されたかと思ったら、そのまま座り込んでしまった。椅子は無い。床へだ。
「あんたら何だ。列車泥棒かっ!」「うんそうや」
機関士は、押さえつけられてもなお抵抗を試みる。
先ずは『情報収集』だろうか。しかしじじいは大した情報を与えず、ニッコリ笑って頷くだけだ。それが却って不気味だ。
「ふざけんなっ」「誰がふざけたってぇ?」
機関士が体を強く揺する。しかしピクリとも動けない。
まだロープで『グルグル巻き』にもなってもいないのに、片手で押さえられた黒田から、身動き一つも出来ないのだ。また揺する。
一方の黒田は軽く猫でも押さえているかのよう。黒井の方を見た。
「いま『運送屋さん』って、言ったでしょうよぉ」「あぁ!」
口を尖がらせている黒田であったのが、黒井の説明を聞いて納得した様子だ。わざとらしくゆっくりと、機関士の方に振り返った。
「そう思っちゃったぁ?」「放せこらっ!」「だめだめぇ」
ジタバタし続ける機関士が、マジ顔になって叫ぶ。
「お前ら、この列車が何を積んでいるのか、知っているのかっ!」




