アンダーグラウンド掃討作戦(四百三十四)
「良し。良いぞ。来い。行くぞっ」「ちょっと待って下さい」
暗闇に光る目がパチクリして動きが止まった。
物陰からひょっこり飛び出した瞬間である。しかし相棒は、引き戻すこともせずにニヤニヤ笑うばかりだ。悪い予感がする。
「今の『良し』と『良いぞ』は同じっすよね。二度言わんでも」
案の定『屁理屈』を捏ねている。黒田は呆れてしかめっ面だ。
「大切なことだから、二回行ったんだよっ! 何だよ。くだらねぇ」
黒井の頭を『ポコン』と小突いてから走り始めた。
足元からは『バラスト』を踏みつける音が響いている。
線路の下に敷いてある小石のことだ。何処から買って来るのか知らないが、個人的には少々分けて欲しい素材である。
線路の方は要らない。持ち帰るのにしても長過ぎて、三丁目の角を曲がれそうにないから。巻き取ろうにも、丸まらなさそうだし。
「静かにっ」
黒田が振り返って『シーッ』とやっている。
人のことを言える口か。言われた黒井はそう思っていた。
しかし恐ろしいのは、確かに黒田の足元からは『砂利砂利』と音がしていないことだ。言うだけのことはある。
「だって『鴬張り』なんだから、しょうがないでしょうよっ」
言われれば一応『そっと』踏んでみるが、こちらは『走りながら』だから無理がある。『無理が通れば道理が引っ込む』は通じない。
「『ホケキョ』じゃねぇよ。砂利なんだから『ジャリジャリ』だろ」
もしかして『砂利』を踏んだときの音である『ジャリジャリ』は、ギャグだったのだろうか。それとも『ジャリジャリ』と音がするから『砂利』という名前になったのか。
おや? だとしたら何故、線路の下に敷いてある砂利は『バラスト』なのか。その秘密をばらすと、おっと、誰か来たようだ。
「しっ。誰か来た」「いや、運転手でしょう」
声の調子から、どちらかと言うと制止された方が落ち着いている。
それも気に入らなかったのだろうか。振り返って『何だ』の表情を見せた。制止するために真っ直ぐ伸ばしていた右手を曲げ、人差し指一本を振りながら指摘する。
「それは違うな。今のは『機関士』だっ」
得意気な指摘。しかし黒井は落ち着いている。機関車に乗り込む機関士を指さして、軽く顎を軽く上げた。黒田は振り返る。
「同じでしょうよぉ。運転するんだからぁ」
黒井が指さしたから『何かあった』と思ったのだが、全然全く違ったらしい。直ぐにしかめっ面になって、黒井を睨み付ける。
「じゃぁ、お前も戦闘機の『運転手』って言ってやるよ」
「いや、飛行機は『パイロット』って言って下さいよぉ」
口を尖がらせている。しかし黒田も黙っちゃいない。
「運転するんだったら、同じなんだろう?」
「全然違いますよ。飛行機は『操縦』するんですよぉ」
得意満面の顔で言って退ける。流石の黒田も『そう来たか』の顔に成らざるを得ない。しかし直ぐ、親指で後ろを指して笑った。
「じゃぁ『あいつ』は何て言うのか、聞いてみようぜっ」




