アンダーグラウンド掃討作戦(四百三十三)
今頃鮫島少尉は、民間の病院へ運び込まれているに違いない。
彼にとって不幸だったのは、陸軍がアンダーグラウンドで作戦遂行中である事実を『非公開』にしていたことだ。
それに乗っていたトラックが劇団の所有で、来ていた軍服が本物であるにも関わらず、『衣装』として見られてしまったのもある。
何れにしても、病院に着いたら一発『ブスッ』と鎮静剤でも注射されて、暫くはお寝んねとなるだろう。お休みなさい。
それにしても、あの大爆発で生きていたことが奇跡だ。
荷台にあった『何かの電装品』は爆発によって焼かれ、残った部品についても粉々になって飛び散ってしまった。
道路の復旧を優先するために、先ずはホイホイと片付けられるのだろう。その後は警察で暫く保管され、必要ならば持ち主を調べるかもしれないが、真実に辿り着くのは難しい。
書類は全て本物だが、記載されている内容に真実が一切ないからだ。監視カメラが捉えたであろう映像を見ても、誰が運転しているかなんて、判るはずもない。その内に鉄屑として処分されるだけだ。
まさかそれが、NJSへのハッキングに使われていた『コンピュータ機器の類』だなんて誰も考えない。
着ぐるみを着用していた琴美は、鮫島少尉は『亡くなったもの』と思っていた。当然だ。ビルの陰から、爆風で色々飛んで来たし、笑ってはいけないが、少し遅れてタイヤだって転がって来た。
あの爆発の中、仮に生き残ったとしても、髪は全てチリチリとなってしまうことだろう。イメチェンにしてはやり過ぎだ。大学に行ったら、友達から絶対からかわれてしまう。そんなの耐えられない。
しかし琴美は知らなかった。黒田にしてみれば琴美は一応孫。
安全について、言葉だけでなく装備についても考慮済だった。
爆発がサプライズなので琴美には知らせていないのだが、着ぐるみは耐熱耐圧仕様で、おまけに防弾機能まであったのだ。
琴美は『マジ重てぇ』と文句を垂れながら歩いているが、そんな優れた着ぐるみであるとは夢にも思っちゃいない。
しかしトラックが大爆発したのは『想定の範囲内』だとしても、祖父の悪戯にはいつもながらうんざりする。これで何度目だろうか。
もし、道を間違えたりしてまごまごしていれば、馬子にも衣装の孫は『やっぱりぃ』と思いながら、爆死していたかもしれないのだ。
笑いごとでは済まされない。ホント冗談じゃない。これではお年玉を、いつもの三倍にでもして貰わないと割に合わない。
「で、次は何処に行けって言うのよぉ。重たいわぁ」
頭を外そうと立ち止まる。しかし止めた。万が一を考慮してだ。
もしかして、一度装着した後『所定の場所以外で外すと爆発する仕様』かもしれないと考えたからだ。
これだけ『大きな頭』である。仕掛けなんて、幾らでも出来てしまうではないか。舌打ちだけして、そのまま歩き始めた。
裏路地に入った所に『所定の場所』があった。
入り口で暗証番号を押して、ドアのロックを解除。中へと進む。
『ガシャン!』「何っ!」
扉を開けて中に入ると、上から防犯シャッターが落ちて来ていた。
一瞬廊下が『暗くなった』と思ったら、今度は急に明るくなる。
『ゴォォォォォォッ!』四方八方から炎に包まれたではないか。
「おじぃちゃぁん、ナニコレ。殺す気ぃ? 何か熱くないけどぉ」




