アンダーグラウンド掃討作戦(四百二十六)
明かりに照らされて浮かび上がったのは、部下の遺体だ。
意識を失ったまま、何日も経ってはいない。何れも今朝までは元気だった奴ら。思わず手を合わせた。不思議と涙は出ない。
理由はさっきまで『同じ場所』に、放置されていたからだ。
それにしても、何故に自分だけが『遺体袋』に収納されていたのか不明である。部下達は野ざらしだというのに。
最初は一列で、奇麗に並べようとしたと思しき形跡が見て取れる。それが段々『参加者多数』と成るにつれ、『山積』へと形を変えた。
ある意味仕方がない。地面はコンクリートに覆われていて、埋葬するのは不可能である。戦闘が集結したら、今度は遺体を引き取りに来なければならないだろう。
それにしても不思議なのは、何故かは知らぬが雨に濡れたはず。
しかし『溶けてはいない』のだ。死因は雨ではない。
ご遺族にしてみれば『不幸中の幸い』と、いや言わんだろ。
現場は既に『本部跡』と相成っている。案内看板の掲出はない。
焼け焦げた車両から嫌な臭いが漂う中を、鮫島少尉は歩き始めた。
遺体の集積所は本部車両の横にあって、その陰から出るときには一応ライトを手で覆う。車両の陰からそっと辺りを覗き見た。
すると広場に、頭を撃ち抜かれたであろう遺体が一つ。目を凝らせば向こうにも一つ。どうやら『北』は危険らしい。
ではと逆を覗き込めば、点々と遺体が転がっているではないか。
「ちょっと待てよ。逃げ道が無いじゃないか……」
時計を見て時刻を確認した。あれから数時間と言った所だ。
まさかの『全滅』も頭をよぎる。現場責任者としてあるまじき行為だ。評価なるものが存在するならば、文字通り地に落ちた。
しかし作戦は『ほぼ予定通り』で推移していたのだ。
敵が保有しているはずのない兵器で『本部を急襲される』など、誰が想定しているものか。言訳をするとしたらその一点に尽きる。
全滅は有り得ない。強く言い聞かせる。半分は願いだが。
静か過ぎるのだ。倒れている兵士の数は『全員』ではないし、それに自動警備一五型が一機も無いではないか。
以前鹵獲されたことから、『プロテクトに改良が加えられた』と聞き及んでいる。だとしたら『敵に奪われること』は有り得ない。
「ちっ、山岸の馬鹿か? あいつ、やりやがったなぁ」
鮫島少尉は唾を吐き捨てる。思い出してムカついて来た。
作戦通りに隊列を組んで行軍していた。先行していたのは、本部設営場所を確保するための自動警備一五型部隊だ。
ところが、厩橋を渡った地点で敵の妨害に合う。装甲車と化した都営バスが、隊列に突っ込んで来たのだ。バリケードの完成だ。
お陰で本部車両は、一時先行部隊と離れてしまった。
いち早くバリケードを突破したのが、山岸少尉の部隊である。
結局本部車両が『本部設営地点』に到着したとき、先行していたはずの自動警備一五型が全機居なくなっていた。
お陰で本部の警備が『手薄になった』と、言わざるを得ない。
鮫島少尉は耳を澄ませるが、何らの『発砲音』も聞こえて来ない。
ここは不気味な程の静けさだ。左右を確認すると、鮫島少尉は走り始めた。向かうのは『北』。戦線を離脱して、大佐に報告せねば。




