アンダーグラウンド掃討作戦(四百二十五)
息苦しくなって目が覚めた。しかし真暗ではないか。
もしかして『目が開いていない』のかと思う。直ぐに否定。
随分と静かだが現在地は多分戦場で、記憶が正しければ『東京アンダーグラウンド』のはずだ。
故に『真暗なのは当然だ』と思いつつ、それでも『反応』とは恐ろしいもので、直ぐに手が動いた。腰付近にあった手を上に。
目を擦ろうとして、動かした手が『何か』に当たった。顔に移動させる間も、顔まで持って来てもまだあるではないか。
何だろう。判らない。慌てて両手を動かしてみても、ずっと『何か』に当たっている。正面を押すと足の方が引っ張られた。
おいおい。何だこりゃ。『全身が包まれている』ではないか!
「ワーッ! 誰かぁっ!」
息苦しいのは『密封されているから』に違いない。
だとしたら叫ぶのは愚策。最初に思い出したのが『戦場』であったはずなのに、それは忘れて『絶叫』とは如何に。全く。
栄えある帝国陸軍士官でありながら、この慌てっぷり。この体たらく。激しく両手両足を動かしてみるが、状況に変化なし。
「おいぃぃっ、何だこりゃぁっ!」
だから『酸欠になりますよ』と言いたい。冷静になりましょう。
「出せっ! この野郎っ! クソがっ!」
もう。貴方は死にたいのですか? それに口が悪い。
「開け『ゴマッ!』、開け『胡麻塩!』、もっと光をっ!」
外から見ていると面白い。いや、知らないで見ていると、気持ち悪いかもしれない。何しろバタバタ動いているのは、『遺体袋』なのだから。普通、生きている人間がお世話になることはない。
それが突然、内側からズバッとナイフで切り裂かれて、腕が見えたではないか。開いた所から今度は両手が見えてグイッと広げる。
「プハーッ! どうなってんだこりゃ」
自分が閉じ込められていたのが『遺体袋』であろうことは、何となく判っていた。そこから勢い良く上半身を起こしたのだが、相変わらず暗い。やはりアンダーグラウンドだ。想定通り。
起き上がろうと、遺体袋の外側に触れたであろう瞬間だ。
「うわあちぃ! 雨か? 何でっ?」
鮫島少尉は、突然想定外の事態に見舞われた。
手に『水滴』の反応があった瞬間、焼けるような痛みが走ったのだ。『溶ける』と思った瞬間、思わず手をはらって服で拭く。
今まで雨に当たって『溶けたこと』なんてある訳ないが、ちょっとだけ実感できた。『手が無事か』は暗くて判らないが、いつまでもここにいたって仕方がない。いや、そもそもココは何処だ?
スマホの懐中電灯。ある訳ない。腕時計のライト。チープカシオでした。ライトなんてありません。取られなかっただけ良かった。
お気に入りの『ヘウエアー』を、戦場に持ち込まなくて正解だ。
ポケットからヘッドライトを取り出して、明かりを手で隠してスイッチオン。良かった。こいつは使えそうだ。
手の覆いを少しづつどかして、明るさを増して行く。すると、自分の付近が露わになって来る。
「山田、田中、中川、川島、島村、村山……。くそっ」
鮫島少尉は、部下の名前で『しりとり』をしていた訳ではない。




