アンダーグラウンド掃討作戦(四百二十四)
赤山と赤星が揃って首を捻るのも、仕方のないことだ。
何しろ立派な『軍事機密』なのだから。だから現状について、少々説明しなければならないだろう。
「日本に、そんなにでっかい潜水艦なんて、あったっけか?」
まず現在の『大日本帝国』は、『ロシア』と戦争中である。
訂正します。『帝政ロシア』とでした。名目上は一応休戦中。
「結構デカかったです。二百メートルはあったかなぁ」
「じゃぁ、原子力潜水艦ですかねぇ?」
黒星が口を挟む。それを聞いた赤星が予想を答えた。
どちらも『不正解』だ。黒星が乗艦した潜水艦は『イー407』であり、全長は百二十二メートル。通常動力型である。
何れも『非公開情報』であり、一般人の目に決して触れることはない。国家が破綻して、情報がばら撒かれたりしない限りは。
現に『戦艦大和』だって、戦時中は有名に非ずだ。
「じゃぁ、戦闘機乗るかぁ?」「Fー2ですかねぇ?」
首を捻りながらも、赤山は納得しようとする。しかし、赤星の予想には思わず苦笑いだ。黒星はポカンとして赤星を眺めている。
「Fー2って。お前、もしかして『ブルーインパルス』のかぁ?」
正解。日本でも有名な戦闘機の機種である。赤山は笑いながら赤星を指さした。その目は『知っている奴を言っただけだろぉ』だ。
しかし、それはそれで無理もない。知っていただけでも、大したものと褒めてやりたいぐらいだ。戦時下に於いて国内だろうが、『最新鋭の戦闘機』を人目に晒す訳にも行かない。
だから『展示用』としては、一世代前の戦闘機が使われている。
「そうですそうです」「いや、あれは無理だろぉ」
だとしても赤山には判る。何しろ実際に飛んでいるのを観たことがあるからだ。Fー2は航空母艦にも載らない。
仮に潜水艦が二百メートルあったとしても発艦出来ぬ。一瞬『カタパルトがあれば?』と思ったのだが、黒星の言葉に押し黙った。
「いや、『プロペラ機』でしたよ?」「馬鹿かぁ?」「今時ぃ?」
この『ジェット戦闘機の時代』に、何でプロペラ機があるのか。
それだけは赤山にも赤星にも判って笑いながらだ。
「いやいや。本当ですよ」「じゃぁ、何て奴だよ」「えぇっ」
「ほれ見ろ。答えられないじゃないかよぉ」「そうだそうだ」
逆に責められてしまっている。銃口をグイグイ押し付けると、黒星の腹が波打つ。しかし黒星だって、知らんもんは知らんのだ。
「いや俺、『お宅』じゃないんでぇ」「嘘つけぇ」「まんまだろぉ」
筆者の世界でも『昔の戦闘機』を見て、『ゼロ戦』と答える人が百人中百二十人として、この世界でも同じようなものだ。
それにしても『決め付け』は良くない。
今正に『殺されようとしている』のにも関わらず、黒星は『お宅』と決め付けられたことが余程心外だったのか、渋い顔付きだ。
笑っている赤山と赤星は、少々冷静になっていた。確かに『プロペラ機』であれば、潜水艦にも搭載可能かもしれない。発艦するときはカタパルトで、着艦するときは海面へ。これならイケる。
赤山は八戸で目撃されたと言う『水上機』を思い出していた。
動画サイトにアップされていたのを偶然閲覧したのだが、数時間後には削除されてしまっていた。実に怪しいではないか。




